昔話1
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「じゃあお父さんこれから仕事だから行ってくるな。佐為さん、ゆっくりしていってね」
ヒカルのお父さんは食べ終わると、慌ただしく会社に行く準備をして5分以内に出て行った。
「ありがとうございます」
「いってらっしゃーい」
「気をつけてね」
食卓には私、ヒカル、ヒカルのお母さんの三人だけになった。でもこの後藤崎さんが訪ねて来るらしい。私もヒカルの家の近くに住んでいれば毎日でも来られるのに。
「あかりちゃんもヒカルが囲碁始めてから一緒にするようになったのよ」
「そうなんですか」
「最初は本当に驚いたわ。何で二人して囲碁なんかって」
ヒカルはムッとしてお母さんの話を遮った。
「俺も何で囲碁に夢中になったのか分かんないよ。でも俺、この道で良かったと思う」
「そうねえ。あんたがあんなに何かに打ち込むのは初めてだったし」
「でもあんたが一昨年の5月からいきなり碁をやめたことにはびっくりしたわ」
ヒカルが、碁をやめた?当の本人の方を向いてみると、呆然としていた。
「碁を、やめた・・・」
お母さんの言葉を反芻して、ヒカルは俯いてラーメンとにらめっこした。
「ヒカル?」
息子の様子にヒカルのお母さんはヒカルの顔を覗き込んで名前を呼んだ。ヒカルははっとして顔を上げ
た。
「そうだ。俺、碁をやめたんだ。でも、何でだったっけ」
「覚えてないの!?」
「あ・・・ううん、覚えてる。ただ、ちっぽけなことでやめたなーって思っただけ」
問題発言だ。碁を愛してやまないヒカルが碁をやめる、ちっぽけなことで。そんなはずはない。ヒカルが碁を捨てられるはずがない。私がヒカルに疑念の視線を向けていると相手もそれに気づいたようで、気まずい雰囲気を醸し出していた。
「でもあの時のあんた本当に変だったわよ。まあ、時が経つとちっぽけなことに感じるって言うけど
ね」
「そうなのかも」
ヒカルは小さな声で返事を返した。この件は、聞かない方がいいのだろうか。私は無意識に別の話題に移していた。
「じゃあ、ヒカルが囲碁を始めたきっかけは何です?」
「俺が、囲碁を始めたきっかけ?何だったっけ。最初の相手がじいちゃんだったのは覚えてるけど」
「そう、あんたいつの間にか院生にまでなるほど強くなってるんだもの」
ヒカルのお母さんは悩ましげに溜め息をつき、わが子を見た。そうだ、ヒカルは強かったのだ。公宏が出した詰碁も一瞬で見極めるほど。
「詰碁の答え、知ってたんですか?」
「え?」
「葉加中の創立祭の時、公宏が出した」
「そんなのやったっけ」
きょとんとして首をかしげる。どうやらヒカルは昔のことはすぐ忘れてしまう人なのかもしれない。で
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