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乱世の確率事象改変
日没に絡むイト
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 秋斗の持っている徐晃隊の数は七千に届かない。敵の動きが間に合っていれば、追撃を抜けてここまで来るには不安が残る。同じく事の重大さを知っている白蓮が早馬を送っていたとしても、ギリギリとなるだろう。
 今回の奇襲による疲労、絶望的な状況による士気低下……さらには彼女達の部隊は歩兵が主であり援軍に向かったとしても足手まといになるは必至。命令は本陣結集、一つの部隊による単独行動は混乱も齎す。
 彼女は、憎しみに心を染めながらも頭の中は冷静であった。白蓮が本陣へ来たという事は憎しみを呑みこんだという事。一番それに身を染めても不思議では無い自身の主が呑みこんだのだからと、星も無理やり抑え込んでいた。
 ギリと強く歯を噛みしめて、後にふっと小さく息を吐きだした。憎悪の感情を空に消し去れるようにと、受け止めて貰えるようにと。

――信じる事。それが私達に出来る事、か。

 彼は生きて自分達の元に来るのだと信じて待つ、それだけしか出来ないと……星は悔しさに身を震わせた。
 一人の友を助けられなかった。主の事も彼に任せた。戦で、槍を振るう事しか自身には出来ないというのに、それさえ封じられた。
 圧倒的な無力感が彼女の心の大半を占め、眉を顰めて耐える。
 ふいに、彼女の両の手に暖かいモノが触れた。
 驚いて左右を見ると、愛紗が力強く励ますように、鈴々が明るく道を照らすように微笑んで、手を握っていた。

「星、彼を舐めて貰っては困る。何も心配はいらんのだ。秋斗殿は強い。よく知っているだろう?」
「そうなのだ。それにお兄ちゃんが雛里と組めば無敵なのだ」

 二人の戦友からの言葉と温もりは星の胸に染み渡る。
 僅かに震える二人の手。どちらも心配なのは同じ、それでも尚、自分達が信じて、出来る事をしなければならない。

「クク、彼の事だ。今頃は雛里と二人で月光に跨りいちゃついているやもしれんな」

 おどけてにやりと笑いかけた。何も心配はいらないのだと、自分にも言い聞かせるように。
 その反応に安堵の色を浮かべた愛紗と鈴々は、それぞれがその姿を想像して納得したように頷き、いつもの軽口が出るなら大丈夫だろうと星から手を放した。

「さあ、そろそろ行こう。桃香様が待っているのだから。星、鈴々、後の事は任せたぞ」
「任せろなのだ! 愛紗もあのクルクルのお姉ちゃんに気圧されないように気を付けるのだ!」
「ああ、任された。桃香殿は何があっても守る故、そちらは頼んだぞ」

 返答を聞いてクルリと背を向けた愛紗は一人、馬に飛び乗って駆けて行く。一つの、与えられた任務の為に。
 彼女には朱里から申しつけられた大役があった。
 曹操との同盟の為にたった一人でその地へと最速で駆ける事。
 この窮地を乗り切る為には曹操からの協力は確実に必要であった
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