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剣の丘に花は咲く 
第三章 始祖の祈祷書
第六話 忍び寄る影
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場に取り残されたボーウッドは、ウェールズの手に触れた唇に手を当て呆然と立ち尽くしていた。
 あの戦いで死んだ筈のウェールズが、生きて動いていた。ボーウッドは、“水”系統のトライアングルメイジであった。生物の組成を司る、“水”系統のエキスパートの彼でさえ、死人を蘇らせる魔法の存在など、聞いたことがなかった。
 ゴーレムなのか? しかし、体には生気が流れていた。“水”系統の使い手であるわたしだからこそ分かる……あの体には、懐かしいウェールズ皇太子の水の流れが……。
 未知の魔法か……ウェールズを蘇らせ、そしてそれを操るほどの魔法……。
 そこまで考えたボーウッドは、まことしやかに流れている噂を思い出し、身震いした。
 神聖皇帝クロムウェルは、“虚無”を操る、と。
 ならばあれが『虚無』なのか?
 ……伝説の“零”の系統。
 ボーウッドは震える声で呟く。

「……あいつは、このハルケギニアをどうしようというのだ」








 クロムウェルは、傍らを歩く貴族に話しかける。

「子爵、君は竜騎兵隊の隊長として、“レキシントン”に乗り組みたまえ」

 羽帽子の下で、濁ったワルドの目がクロムウェルに向く。

「……目付け、ですか」
 
 首を振って、ワルドの憶測を否定したクロムウェルは、首を後ろに向け、まだ呆然と立ちすくんだままのボーウッドを見た。

「あの男は、決して裏切ったりはしない。頑固で融通がきかないが、だからこそ信用できる。余は魔法衛士隊を率いていた、君の実力を買っているだけだ。竜に乗ったことはあるかね?」
「ありませぬが、ご心配なく……」

 その言葉に満足気に頷いたクロムウェルは、後ろに控えている、以前の自信に溢れ、風を切って歩いていた面影が欠片も見当たらないワルドに顔を向けた。
 
「そう言えば子爵。もう加減はいいのかね? ついこの間まで、ベッドで寝込んでいたと聞いていたのだが」
「……ご心配をお掛けしました。ええ、今は全く問題はありません」
 
 俯いた状態で、ぼそぼそと小さな声で答えるワルドに、クロムウェルはまだ体調が万全ではないと思い、優しく微笑みかけた。

「ふむ、それならば良いが、そう言えば君は、あれだけの功績を上げながら、何一つ余に要求しようとはしなかったが、何かないかね?」

 その言葉に、ワルドは俯かせていた顔を上げ、鈍い光が灯る目をクロムウェルに向けると、残った生身の手で、首に掛けているペンダントに触れた。

「……“聖地”を……」
「“聖地”? ふむ、信仰かね? 欲がないのだな君は」
 
 元聖職者でありながら、信仰心など欠片も持たぬクロムウェルは、ワルドの言葉に呆れた様子で笑いかけた。
 それを横目で見たワルドは、触れていたペンダントに
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