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渦巻く滄海 紅き空 【上】
三十  狐雨
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和だな」
「世間話をするためにわしを呼んだのか」
「あんたも相当気が短いな。黙って話に付き合えよ」
苦笑する再不斬から余裕が感じ取れて、不快そうに自来也は眉を顰めた。
嫌気が差すと共に感じる疑念。三忍である自分を前にしてこの態度。何かあるのか。
猜疑心を募らせながら、彼は再不斬の話に耳を傾けた。

「この里も表向きは平和そのものだが、裏は結構ドロドロしてるだろうが。例えばうちは一族とかな…」
「……………」
「血霧の里などと大っぴらに言われているより、よっぽどタチが悪いぜ」
「…何が言いたい?」
要領を得ない話に終止符を打つ。いい加減聞くに堪え兼ね、自来也は低い声を上げた。かなり凄みのある声音だったが、素知らぬ顔で言葉を続ける再不斬。

「外に目を向けるより内を注意した方がいいんじゃねえか、って事だ。今この里にゃ、俺の他にもお尋ね者がいる。俺なんかよりそいつを逃した方がマズイんじゃねえのか?……色々と」
含みのある言葉に、自来也は眉間に皺を寄せた。里を今一度見渡す。

木ノ葉は平和そのもので、再不斬含め、指名手配犯が潜んでいる様子など微塵も感じられない。ましてや……。

緩慢に首をめぐらせ、自来也は目線を再不斬に戻した。暫く黙りこくっていたが、やがて肩を揺すって嗤う。
「やけに遠回しな言い方をするのう。正直に言えばどうだ?『自分を見逃せ』と」
「見逃してもらうのが目的なら、最初から姿なんか見せねえよ。俺はただ、あんたと取引がしたいだけだ」
「取引だと?」
自来也の警戒を孕んだ鋭い視線が、どこか値踏みするような視線に変わった。それを敏感にも感じ取った再不斬は内心ほくそ笑む。
「あんたのような大物が情報収集するには、この里は動き辛いだろうが。だからこの俺が密偵として里の隅々を探る。あんたはその報告を聞けばいい」
「…………」
ざわめく胸を押し殺し、思案顔で顎を撫でつける自来也。手汗を掻いているにも拘らず、涼しい顔を装う再不斬。長々とした沈黙が両者の間で流れた。

確かに再不斬が言う取引には興味を引かれる。しかしながら自来也は彼の言葉の意味を判じかねていた。信頼に値する人物かも微妙なところだ。

とにかく相手の要求を窺うために、「そっちの条件は?」と自来也は訊ねた。
「畑カカシの情報」
即座に告げられた言葉に、眼の色が変わる。好奇の色が一瞬にして消え、自来也は冷たい目つきで再不斬を見つめた。冷厳に言い放つ。
「交渉は決裂だ」

一蹴。

寸前以上にピリピリと張り詰める空気。自来也の殺気をその身に受けながら、(やはりな)と再不斬は思った。
「このわしが、仲間を売るような真似をすると、本気で思っていたのか」
多分に湿気を孕んだ風が丘上を緩やかに吹き抜けた。長く豊かな白髪が自来也の顔半分を覆う。
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