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黒の仔〜黒の世界へ〜

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酷く息苦しい。
鼻だけでなく肺や胃の中が錆びた鉄の臭いで満たされ、そうしようとしなくてもえずいてしまう。
辺りには熱風が吹き荒れ、地は熱を吐き続け陽炎が揺らめいていた。
肉が焼ける臭いがする。
時々熱風に飛ばされてやって来る火の粉が髪や体の露出している部分を焦がす。
目と喉が乾いて痛む。
肌も乾燥してきたのだろうか。ヒリヒリと日焼けしたように、顔全体が特に痛む。
ここまで言えば分かるだろう。
火事だ。
だが、周りで武器を持った死体が転がっている。
これは単なる建物を燃やす火事ではない。
戦火だ。
戦いによって上がった火の手による火事だ。
火が、死体を焼いていく。夥しい数の死体を、焼いていく。
全部燃える。
全部。
燃える。


「終わ・・・た」
声が掠れて上手く喋れない。今度は焼け焦げた臭いで息苦しい。粗方の火は燃え尽きたものの、
空気はまだ熱を帯びている。
熱い。
痛い。
帰りたい。
「こ・・こ、・・・・どこ」
乾いた咳は出るが、先程の火事のせいで涙が出ない。というより出せない。目が痛い。人が肉の
塊だと分かった。人が燃えるとどうなるか分かった。分かってしまった!なんで私はこんな場所
にいる!家に帰りたい、帰してよ!帰せ!帰せ帰せ−

「返せよッ!!!」

その時、青年の叫びが木霊した。
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