V マザー・フィギュア (2)
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僕はマンションの庭園で夜を明かした。
厳密には野宿ではないと述べておく。僕は持ってきた弓を一晩中引き続けたからだ。実戦じゃないから八節に従ってのシミュレーションだ。いくら射たのか――いや、具体的な数値を出す意味は今はない。
番えて、放す。一見してシンプルな動作だが、この過程で雑念はほぼ削ぎ落とされた。今の僕なら麻衣に触れられようと心揺らすことはないと断言できる。
よくも一晩、一人で外にいられたものだって? ああ、確かに単独行動は避けないと日高に狙われるとさんざん警戒したのは僕だ。だが、今はあの白い魔女の魔法の檻にいる。彼女の「魔法」というのは犠牲者を出さないものだというのは説明したな。
――無欠の魔法。
白い魔女自身は苦手だが、これには感謝しておいてやろう。
さあ、戻らないと。
弓を持ち直してマンションに入り、部屋に戻る。エレベーターは使わない。寸暇を惜しんで鍛えろ、との師の教えによりこの手の文明の利器は使用を禁じられている。
部屋の前に着く。鍵は――開いていた。
無言で部屋に上がる。リビングに行くと、ソファーで麻衣が寝ていた。
昨日も言ったのに同じ轍を踏むのか、この女性は。
僕はため息をつき、麻衣を抱き上げた。起きる様子はない。寝室に連れて行ってベッドに麻衣の体を横たえる。布団をかけてやると、身じろぎはしたが起きなかった。
待っていたのか、僕を。
寝室を出て、さっきまで麻衣が寝ていたソファーに腰を下ろす。まだほのかに温かい。深呼吸すると、暖房もつけていなかったリビングの空気がノドを刺した。
君は馬鹿だ。誰より危機感知に優れているくせに、一番案じてはいけない男の身を案じているんだぞ。
――。
――――。
やめた。僕が言ってやめるなら麻衣もとっくに静かになっている。ここで粘るから谷山麻衣なんだ。彼女の『ナル』もそういうところにほだされて交際するようになったに違いない。
「ネージュエール卿、質問があります」
ちりん。いつのまにか正面に座っていた白猫は、すぐさま白い魔女に変じる。対談形式になった。
「私に答えられることなら」
「あの麻衣が僕の秘密を知ったら、帰ったあとの麻衣の時間軸はどうなりますか」
「それは答ええない問い。貴方が彼女に何を託すかで彼女の道行きも変わる。ただ、知ったとて歴史は簡単に変わらない。彼女が覚悟を抱いても、『彼女のナル』が同じ意志を持つとは限らないから」
「まるで意志さえあれば歴史は変わるとでも言いたげですね」
「かなりのところまで変わるわよ」
それも、そうか。でなきゃ日高みたいな輩がのさばれるはずもないな。
ただの怨霊だったものが、僕ら「グリフィスの男児」への憎悪
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