V マザー・フィギュア (2)
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で自らを呪いへと変えた。祖父を殺した辺りから日高の都合のいいように事が運んだのは否定できない。日高が行動しやすい日本に父たちが踏み込んだのもあながち偶然の重なりとは言えない部分がある。
「では麻衣が帰ったあと、僕のこの時間軸は?」
「変わらない」
即答か。まあそうだろう。いわゆる親殺しのパラドックスだからな。
「彼女が心配?」
「どうでしょうね」
僕が麻衣の先を思い煩ったところでどうにもならない。今から僕の秘密を教えてやれば変わりはするかもしれないが、教えてどうなるという諦観もある。
第一、今の僕に何を思い煩えるのか。僕は日高を殺したあとで10年前の僕に戻って、死ぬ。生命の停止にせよ精神の停止にせよ、僕に先がないのは決定事項だ。死体が生きた人間を上等に案じてどうなる。
「そうね。生者を変えられるのは生者だけ。死者には何も、ない」
心を読むな。
「……僕の10年は、何だったんでしょうか」
一人の女を憎むことに専心すると決め、奴を殺すのに必要としない経験や情愛は切り捨ててきた。養父母やプラット研究所の同僚、思い返せば彼らに冷酷な仕打ちばかりしてきた。
それでも、10年前に殺された心は、どんなに愛されてもコトリとも揺れなくて。
それも日高を殺す日を思えばかすかな希望を見出せた。
ゆうべ、打ち砕かれたけどな。
考えてはいけない。ふり返れば、重さに潰れて、それこそ本当に、奴との決戦に臨む前に死んでしまう。ああ、なのに、なのに!
「今は眠りなさい」
白い魔女が手を僕の両目にかぶせた。陶器の感触がする。体温なんてない無機の手だ。従いたくないのに急速に眠気がやって来る。
「目が覚めたら、今日一日だけでいい、『日常』を知りなさい。それは貴方の糧になるから」
僕は師に受けたトレーニングのおかげで食欲や睡眠欲はほぼコントロールできるから、一晩徹夜した程度では蚊ほども堪えない。
それを強制的に眠らせるんだから、本当にこの女の親切はありがた迷惑だ……
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