V マザー・フィギュア (1)
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ない)
彼の心は――死んだ。
(そんなこと絶対にあっちゃいけないのよ!!)
弾かれるように我に返った。
なんだ、今の。あれが麻衣の夢だっていうのか。まるっきり僕のことじゃないか!
「貴方とリンクしたせいで貴方の力の一部を用いた夢を見ているの」
僕は日高に殺された『僕』を取り戻したくて戦いに赴くはずだ。僕が存在する限り永劫解けない安部日高という呪いを打ち破るために、血ヘドを吐いて生きてきて、死の呪いを超えて生を掴もうとしたんだ。
それが何だあれは! 何も戻ってこないじゃないか! じゃあ僕は何のために10年もこんな生き方をしてきたんだ。養父母の注ぐ愛情も蹴って、自分を慕うあらゆる人間を弾いて、人として最低な生き方をしてきて、その代償がこれ? ふざけるな!
ひとしきり無言で激昂して――醒めた。
――ああ、でも、それでアタリマエなんだ。
10年前に僕は殺された。僕はとうに死んでいる。死んだ人間は生き返らないと師も言ったじゃないか。
滑稽だ。死体が生者に復讐しようとしてたわけだ。
望むところだ。
未来がないのならば憎しみを燃やす尽くすためにだけ進んでやろう。もはや先なんて度外視だ。家族を殺したあの女への憎悪、あらゆる殺戮で叩きつけてくれる。
パチ。麻衣が目を覚ました。
白い魔女は消えていた。ああもう追及するのも馬鹿らしい。
「ん……ナル……」
麻衣は僕のシャツの裾を指で弱々しく掴むと、そのまますり寄ってきた。彼女の「ナル」とはこういう付き合いだったんだな。口ではやかましく言っていたくせに、寝ぼけたとたんに無防備になるなよ。
「寝ぼけるな。起きろ」
「うー……おかえり」
麻衣はまぶたをこすりながら起き上がった。しばらくはボンヤリしていたが、意識がはっきりしてくるにつれて、僕を見る内に表情が硬くなっていく。思い出してるんだろう、僕が殺人者予備軍だと。
今に至って気遣ってやる意味はない。
僕は真実その道を進むんだ。そしてその先はない。人殺しになって、人殺しとして死ぬ。だから麻衣が僕に人間として接する意味は消えた。
「どうした?」
意地悪く聞いてみる。
「あのさ、ナル、何かあった?」
「何故?」
「辛そう」
辛そう? 僕が? とんでもない。それどころか今の僕は箍が飛んだように晴れやかな気分だ。
「別に」
「うそ! あんた、そういうの絶対顔に出さないくせに、あたしにも分かるなんて相当だよ! ねえ、ほんとに何があったの? また襲われた?」
「何でもない。しつこいぞ」
必死に訴える麻衣を突き放す。麻衣は子どもじみた顔で僕をじっと見ている。
何故なんだ。君のセンシティブなら僕
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