U ライトグリーン・メモリアル (2)
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……憎悪。
あのナルが、他人を、憎んでいる。
「僕が生きるために誰かを殺すことが必要なら、僕は僕のために迷わない。あの女が存在して今も息をしているだけで冗談抜きに心臓が止まりそうなくらいおぞましい。だから、僕は今日まであの女を、」
あたしは肝心なとこで耳を塞いだ。手で塞いだんじゃなくて脳で聞くなと命じて声の受け取りを拒否した。
ジーンを死なせた犯人にだって何も言わないナルが、ここじゃコロスなんて、言ってる、そんな、現実は。
「ダメだよ――」
「何が」
「人殺しなんて絶対ダメ! 仇討ちでも何でもナルが同じことしたら、ナルだってそいつと変わんないよ。そんなメチャクチャな理由でナルの家族を殺すような殺人鬼のためにナルが手を汚すなんて間違ってる! やめてよ、ダメだよ!」
「麻衣は僕が黙って日高に殺されるのを待てと?」
「違う!! そうじゃない、そうじゃ……そうだ、警察。殺人犯なんだったら警察に」
「安部日高は戸籍上は死んでいる。東京地検の心霊事件捜査班でも死人を法廷に送れはしないし、警察は死人から守ってはくれない」
「そんな……」
「自分が手を汚さなければ自分を守れないケースもあるんだ、麻衣」
「どうしても、そこまでしなきゃいけないの?」
「ああ。どうしても、だ」
ナルの目には迷いなんて一つもなかった。たった一点を目指して天を目指す氷山を思わせる瞳。
あたしなんかじゃナルの決意を覆せない。分かって、それでもナルにそんな血まみれの道を進ませたくなかった。けれど、あたしじゃ止められない。堂々巡りだ。
結局マンションに帰りつくまでに、あたしは一言もナルに言い返せなかった。
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