U ライトグリーン・メモリアル (2)
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
年間があの一瞬で無駄になったな」
ナルは嘆息に乗せて呟いた。
「じゅ、10年!? 10年も修行してたの!? そんな長い間やってたんなら、1回失敗したくらいで落ち込むことな」
「どれだけの年数を重ねようと、結果が伴わなければ意味はない。家族を殺されてからの時間を有効に活かせなかったなら、それは徒労だ」
「そう言わないでよっ。今日までがんばってきたんでしょ? その努力は絶対無駄になんかならないよ」
ナルはそれ以上は言わなかった。よかった。あたしなんかの言葉で効いたんだ。
――気になる。ナルの精神をこうも追いつめている犯人は、どんな奴なんだ?
「……。ね、その人を、その、殺したの、どこのどいつ?」
事故の隠蔽の結果としての殺人じゃない、悪意をもってナルの大事な家族を殺した人間がいる。妙にざわつく気分。
「安部日高。いざなぎ流陰陽道の太夫。式の使役に長けた女で、実体のある妖怪を従える実力者だ」
誰とも知らない名前だ。心当たりはない。
「僕の父方の曾祖母が日本人で、日高と同じ太夫だった。日高は曾祖父の血筋の根絶を望んでいる」
「ひいおじいさんはその日高って奴に何したの? 関係ないナルの家族を殺すくらい酷いこと?」
「曾祖父自身は日高とまったく関わっていない。最大の原因は、曾祖母と愛し合ったこと」
「ひいおばあさん?」
「日高は同性愛者だったんだ。曾祖母に横恋慕した末に曾祖母と結婚した曾祖父を憎んで、曾祖父の血を継ぐ男児がこの世に生きることを許さなかった。理解できる心情だ」
理解、できるって? 今でさえ他人の好意なんて迷惑なもの、理解の外にあるものと切り捨てるナルが、愛憎を理解? ……軽く吐き気がするよ。
「最初は曾祖父」
ナルの歩みが遅くなる。
「次に祖父」
ナルの歩みがさらに遅くなる。
「父」
ナルの歩みがすごく遅くなる。
「母」
ナルの歩みが止まる。
「最後は……」
「もういいよっ。無理して話そうとしなくていいっ」
自分で聞いといて情けない話だけど、これ以上は無理だ。なのにナルは、やめない。
「日高は最後に残った僕を殺すつもりでいる。今日まで生き延びられたのは運が良かったからに過ぎない」
もうナルが辛いだろうからやめてほしいのか、あたしが怖いからやめてほしいのか判然としない。
「あの女は僕をまだ狙っている。昨日のことは僕が日本に戻って来たことを察しての小手試しだろう。土蜘蛛用の祭具は水晶独鈷ともどもまだ届かない。行動を見透かされているな」
澄んだ黒い目はあたしに向いたまま、あたしを見てはいなかった。こっちのナルが時々見せる尊大な目つきに似てるけど、これはちがう。見下すのにも似た、そう
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ