U ライトグリーン・メモリアル (2)
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
、と彼女の空気は如実に語っている。まったく、彼女の「ナル」はどれだけコミュニケーション不全者なんだか。
奥に神棚と日章旗が据えられた射場から、芝を敷いた矢道、そして的場を臨む。担いでいたケースから自前の弓を取り出す。矢は施設のものを使用する。
「射場には近づかないように」
「しゃば?」
「このライン。射る人間が立つ場所」
「はーい」
麻衣は殊勝に返事し、座る場所を探して辺りを見回す。上座を示してやると小走りに行って、律儀にも正座した。……持って30分と見た。
僕は弓を持って射場に立った。
矢を番える。思い描く。
イメージは一人の女。袴。御幣。異形の蛇。貼りついた笑み。狂喜。
女の、のどを、射抜くイメージから。
Release((離れ))。矢を放つ動作。
……こんな夢想をする時点で「弓道」を語る資格はないんだがな。
弓と他の武道の違いは相手がいない点だ。
敵は己自身。的は自分を映す鏡。僕の師はそう語った。
「中てる」気で矢を放ってはいけない。矢は「中たる」ものであり、正しく弓を引くことこそが弓道の本義。――つまり、唯一の標的を想定して鍛練している以上、僕の弓はどうしても邪道の域を出ない。
あえて正道を外れたのだ。
あの女を、あの怪物を、射抜くために。
【麻衣side】
結論から正直に言おう。
すさまじくかっこよかった。
買い物を終えてマンションへの帰路についたあたしは、ナルの背中を見ながら彼の射(弓を実際に射ること)を思い出していた。
外見がイイからじゃない。射た矢は実に70本、その全てが的の真ん中に中ったからでもない。
美しかったんだ、弓を引く彼が。
人生18年、まさかこの形容詞を本気で使う日が来ようとは思わなかったよ。付き合ってるほうのナルにさえ使ったことないよ。
姿勢、動き、しぐさ、どれをとっても完璧で(といってもあたしは弓道素人だからそう感じただけ)。横顔は張りつめていたけど穏やかでもあって、まるで彼の立つ場が別世界のように――崇高。
惚れ直したじゃないかちくしょー。
「何見てるんだ」
はぅあ! 何で後ろから見てたのに気づくかなー。背中に目でもついてんじゃないか?
「ナ、ナルはさ、何で弓道なんてやろうと思ったの? やっぱ太極拳みたいに必要に迫られて」
ナルは押し黙る。いーんだ。答えてくれなくたって。慣れてるもん。ケナゲな麻衣ちゃんは恋人が冷血漢でもめげませんっ。
「――麻衣。存在しないものを殺すためにはどうすればいいと思う?」
「はい?」
「幽霊。妖怪。精霊。神仏。魔物。悪魔。実体を持たないとされる幻想上の存在。これらに対して殺害の手段として思いつく
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ