U ライトグリーン・メモリアル (1)
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、ナル、何でもないよっ。ちょっとドジっちゃっただけ」
麻衣は指を立てた。――指先から滴り落ちて手の平まで赤く濡らす、血。
血を流しているのは、麻衣。
麻衣が、血を流している。
フラッシュバック。鮮烈な赤。赤い海に浮かぶ死体とも呼べない女の肉塊。赤く汚れた栗毛の下に瞳孔がなくなった目。
幻像を結ぶ。赤い風呂敷包み。下のほうだけ赤い。赤い。ちょうど人間の首が入る程度の大きさの包みが赤い。中に入ったものは静かに目を閉じていた。
シンクに手を突いた。吐き気がする。気持ち悪い。血。血。麻衣の血。やめろ、僕の思考を犯すな。
「ナ、ナルっ? ちょっと、しっかりして! ねえ、どうしたの!? やだ、なんでっ」
麻衣が泣き出しそうな声を上げた。少しだけ理性が戻った。
手を伸ばす。麻衣の、血がついたほうの手を掴んで覆い隠した。
「君のほうが、パニックになって、どう、する。しばらくすれば治る、から、騒がしくする、な」
落ち着け。この麻衣は関係ないんだ。いくら別の世界の同じ人間だからってどうってことはないんだ。だから落ち着いて……
――え?
背中が温かい。誰かが撫でてくれている。
誰か。ここにいるのは僕と麻衣だけ。だから、僕を宥めるように背中を撫でているのは麻衣しかいない。
今までの誰にもされた験しのない行動、味わったことのない安堵。ああ、これなら、大丈夫だ。
ようやく落ち着いて顔を上げた。麻衣が不安げに僕の顔を見つめている。悪いことをした。こんな訳の分からない行動を目の前でとったりして、びっくりしただろうな。
「ひょっとして、……血、ダメなの?」
するどい。逡巡したが、首肯した。
「あの人が死んだ時、一面血の海で、それ以来ずっとだ」
だから麻衣の血は僕にそのトラウマを呼び覚ますには充分すぎる威力だった。
「あの人って?」
「家族」
手を放してシンクに両手を突いて長く息を吐いた。
麻衣は納得した様子を浮かべ、次いで残念そうに眉根を寄せた。あの人、を誰だと思ったかはどうでもいい。どうせ麻衣が浮かべたのが誰であろうが外れだ。僕だけが彼らの陰惨な死に様を知っていればいい。
「一面血の海って、事故?」
普通はそう思うよなあ。でも申し訳ない、ちがうんだ。
「殺された」
麻衣は目を見開いてひゅっと息を呑んだ。ああそうか、麻衣の世界ではまだ人殺しは大事件として扱われているんだった。こっちじゃ人なんて、僕の家族に限らず、右を向いたか左を向いたかだけの差で殺されるものだ。動機があるだけ僕はマシだ。
「やったのは生粋の妖怪を従える術者の女。その人は奴が使役した妖怪に食い殺された。僕を庇って」
僕さえいなけ
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