第三章 始祖の祈祷書
第五話 竜の羽衣
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ていた。
赤は身近に感じている色だ。しかし、身近に感じる赤は……こんな鮮やかな色ではない……こんな燃えるような、輝くような……煌めくような色ではない。
自身の心を染める赤は……濁った、粘りつくような赤だ。
自嘲の笑みが口元に浮かぶと、後ろから足跡が近づいてくる。
何気なく振り返り……息を飲んだ。
後ろにはシエスタが立っていた。
士郎の後ろに立つシエスタは、スカートと木綿のシャツ姿ではなく、眼前の夕日と同じ色をした緋色の着物を着ていた。
何も模様はないが、鮮やかな緋色に染められた着物を着たシエスタは、木の靴ではなく草履をはいた足で、ゆっくりと歩み寄ってくる。
近づいてくるシエスタに、声を掛けることも出来ず、ただその姿をぼーっと見つめていた。
シエスタは士郎の横に立つと、風になびく髪を左手で抑え、赤く染まる草原を見た後、恥ずかしそうに俯いた。
「ここに居たんですねシロウさん。お食事の用意ができましたので、迎えに来ました」
隣にたつシエスタから日向の香りがする。俺は再度赤く染まる草原に顔を向け、目を細めるとシエスタに話しかけた。
「綺麗だな」
「ありがとうございます。この草原、シロウさんにみせたかったんです」
シエスタはそう言うと、士郎に顔を向け笑い掛けた。士郎を見つめるシエスタの顔は、沈む夕日に染められ真っ赤になっている。赤い着物を着たシエスタは、まるで燃えているように見える。
「シロウさんがひいおじいちゃんと同じ国からやってきただなんて、凄い偶然ですね」
「ああ……本当にすごい偶然だな……」
本当はもっと凄い偶然があるんだがな……。
士郎はシエスタが着ている着物に目を向けると、それに気が付いたシエスタが、着物を見せつけるように両腕を広げた。
「綺麗な服ですよね。キモノと言うそうです。ひいおじいちゃんがお母さんに作ってあげたんだそうです」
「そう……か……ひいじいさんが」
「はい、わたしはひいおじいちゃんと会うことはなかったんですけど、とっても優しい人だったそうですよ……ただ」
「ただ?」
シエスタがなにやら難しい顔をすると、自分が着ている着物に目を落とした。
「ただ……いつもどこか寂しそうだったって。お母さんにこれを渡すときも、なんだか悲しげだったって。もしかしたら、ひいおじいちゃんは故郷に誰か大事な人がいたのかもしれませんね」
赤い着物を見下ろして、悲しげに呟くシエスタの頭に士郎は手を置くと、ゆっくりとシエスタの頭を撫で始めた。
「あっ」
「……俺たちは明日には学院に帰るが、シエスタはどうするんだ?」
俺に頭を撫でられているシエスタは、まるで撫でられている猫のように目を細める。
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