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剣の丘に花は咲く 
第三章 始祖の祈祷書
第五話 竜の羽衣
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 タバサは息をひそめて、木のそばに隠れていた。目の前には、廃墟となった寺院がある。かつては壮麗を誇った門柱は崩れ、鉄の柵は錆びて朽ちていた。
 明かり窓のステンドグラスは割れ、庭には雑草が生い茂っている。
 
 ここは数十年前にうち捨てられた開拓村の寺院であった。荒れ果て、今では近づく者もいない。
 村跡の近くには、川や森があり、生活するには最適といってもいい場所ではあるが、それでは、なぜそんな場所であるにもかかわらずこの村が打ち捨てられてしまったかというと……

 ドンッ、という音と共に、寺院の崩れた門柱の隣りに立つ木が爆発音と共に燃え上がった。
 それを確認したタバサは、両手で握っている杖を、ギュッと握り直す。
 爆発音に驚いたのか、廃墟となった寺院から、この村が廃村となった理由が飛び出してきた。

 それは、オーク鬼であった。

 身の丈は二メイルほどもあり、体重は標準の人間の優に五倍はあるだろう。醜く太った体を、獣からはいだ皮に包んでいる。突き出た鼻を持つ顔は、豚のそれにそっくりだった。その姿は、二本足で立った豚、という形容がしっくりくる体であった。
 そう、この開拓村が廃村となった理由は、このオーク鬼たちにあった。人が住みやすい環境となれば、他のものにとっても住みやすい環境でもある。開拓村が出来てしばらく経つと、近くにオーク鬼たちが住み始めてしまったことから、村の者たちは領主に訴えたのだが無視をされてしまい、貧しい開拓村には傭兵を雇う金もなかったことから、泣く泣くこの開拓村を放棄したのであった。
 オーク鬼は、ぶひっ、ぴぎぃっ、と豚の鳴き声で会話を交わし、門柱の辺りで燃える炎を指差すと、それぞれ怒りの咆哮をあげた。

「ぶひぃっ! ぴぎっ! びゅぎっ! ぶひょぉぉっ!!!!」
 
 オーク鬼たちは、いきり立つと手に持った棍棒を振り回す。火がある。それはつまり、近くに敵であり、餌でもある人間がいるということであった。
 騒ぎたてるオーク鬼たちの様子を冷静な目で眺めていたタバサは、事前に決めていた作戦を実行するため、呪文を詠唱し始める。タバサが呪文を唱え終えると、オーク鬼たちの周囲を取り囲むように氷の壁が現れた。“アイスウォール”である。
 氷の壁に取り囲まれたオーク鬼たちは、突然の出来事に取り乱し、ぶぎぶひとさらに騒ぎ立て始めた。
 氷の壁に閉じ込められ、混乱するオーク鬼たちの中心に、トンッ、と空から赤い外套を纏った人影が降り立った。
 赤い外套を纏った人影。士郎は地面に足が着くと同時に、既に抜き放っていたデルフリンガーを無造作に横に振り、不幸にも士郎の横にいたオーク鬼の首を切り飛ばすと、まさに風のごとき速さで動き出した。
 士郎は氷の壁を飛び越えた時に確認した、オーク鬼たちの中で一際体格が良く、装飾品の
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