二十九 水面下
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太陽の光が川渕の岩に鈍く反射する。天蓋を織り成す樹々の合間から、キラキラと金が覗き見えた。林の中を突っ切り、薄暗い岩場を軽やかに駆けてゆく。
一層狭まる川幅。程無く聞こえてくる、轟々とした低い唸り。激しい水音が近づくにつれ、豁然と開ける視界。ザッと勢いよく地を蹴る。同時に樹々のトンネルが突如途切れた。
跳躍。
真下は白く泡立つ滝壺。崖から真っ逆さまに落下する。視界の端に映るのは、水面上に突き出ている巨大な岩。太陽のもと、金の髪が踊った。
とん、と岩上に飛び乗って、周囲を見渡す。
「まだ来てないのか…」
派手に飛沫を飛び散らせる瀑布。白滝を振り仰いで、彼女は嘆息した。
「まぁ〜た、取材かよ〜…エロ仙人も懲りねえってば」
大方また小説の取材と称した覗きをしているのだろう。エロ仙人改め自来也に弟子入りした波風ナルは、諦めたようにかぶりを振って、川岸に飛び移った。
柔らかな陽射し。さわさわと揺れる木陰。優雅に泳ぐ水鳥。疎らに聞こえてくる鳥の囀り。
穏やかな静寂の中、ナルの存在は酷く浮いていた。ぽかぽかとした日和には似合わぬ、焦りの色を表情に浮かべる。
先日教わったばかりの【口寄せの術】。本試験までに完成させねば、と修行の続きを始めたのだが、ちっともはかどらないのだ。
「…くそッ、なんでだってばよ」
上がらぬ修行の成果に憤る。何度やっても上手くいかない。歯痒くて仕方が無い。
独りきりの修行故、それは仕方の無いことなのだが、ナルは自分を責めるしかなかった。
彼女はいつも独りで修行していた。独りで努力していた。独りで鍛錬していた。なぜならアドバイスや教えを授けてくれる者など今まで誰もいなかったからだ。
物心ついた時には里中から煙たがられていた。いっそ清々しいほど忌み嫌われ、憎悪の目を向けられた。今やイルカやカカシ、同期の仲間達がいるとは言え、もっとも勉学に励むべきアカデミ―では悲惨であった。
イルカを除いたアカデミー教師は皆、ナルにだけ投げ遣りな態度をとった。他の生徒の前で晒し者にされるのはしょっちゅう。質問しても適当に返され、面倒事を押し付けられる。完全無視という教師までもいた。
アカデミー教師でさえその有様なのだ。生徒もすすんで彼女に近づこうとしなかった。万が一いたとしてもそれはほんの一握りで、逆に迷惑をかけてしまう事もしばしばあった。自分を一度でも庇っただけで爪弾きにされる。大人達から己同様白い目で見られる。
一緒にいたら迷惑がかかる。それなら自分から独りになろう。誰も傷つかずにすむように。どうせ最初から独りだったのだ。今更孤独になったところで何も変わらない。
故に自ら孤独の殻に引き籠った。その時こそ、ナルの典型的な孤独時代だった。
だからだろうか。頼るという事自体がとてつもなく悪い事
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