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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百十話 一年
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平民達に厳しく貴族達に甘かったのはそのためだ。

その貴族の存在が無くなればどうなるか? 緩衝材が無くなる以上、皇帝は自ら平民達と向き合わなければならない。つまり失政に対する平民達の批判は直接皇帝に向けられるという事になる。ここで厄介なのが皇帝は終身職だという事だ。同盟と違って選挙で皇帝を政権から叩き落すという事が出来ない。

そういう意味では帝政は自浄能力が極めて低い政体だと言わざるを得ないだろう。皇帝の権力が強ければ強い程その傾向が強くなる。そして銀河帝国は皇帝の権力が非常に強い国家だ。皇帝の権力行使に対するチェック機能、抑止機能がまるでない。ルドルフの馬鹿が議会を解散するからだ。残しておいてチェック機能を与えた方がずっと国家としては健全性を保てたのに……。

平民達が政策の変更を求めても皇帝がそれを受け入れなければどうにもならないとなれば平民達にとって政策の変更はイコール皇帝の暗殺という結論に行きつく。皇帝だろうが乞食だろうが命は一つだ。殺されたくなければ皇帝は平民達の反応を常に気にしなければならなくなる。

これから先、帝国は同盟との間に和平を結び国内の改革を実施する筈だ。となると帝国側から和平を破棄して戦争というのは非常にリスクが大きい。改革が中断しかねないし敗戦となればその面でも平民達から非難を浴びかねない。ロマノフ朝ロシア、ドイツ第二帝国、いずれも敗戦によって帝政が終了した。

帝国は国債を償還して和平を維持するだろうと俺が言ったのは戦争というのは余りにもリスクが大き過ぎるからだ。最高評議会議長は戦争で負けても政治家としての生命を失うだけで済む。しかし皇帝は生物としての生命を失いかねない、場合によっては帝政そのものを失いかねない。同盟より帝国の方が指導者に降りかかるリスクは大きい。当然慎重にならざるを得ない。となれば後継者選定も慎重にならざるを得ないというところまで行き着くはずだ。馬鹿や異常者には帝国は任せられないということになる。皇帝だけじゃない、平民達もそう思うだろう。

「和平が結ばれなかったら如何されるのです?」
ラップ少佐が俺に問いかけてきた。心配そうな顔をしている。好感の持てる男だ、周囲からも信頼が厚い。ジェシカとはどうなっているんだろう? そういう話は聞いたこと無いな。今度訊いてみるか、いやプライベートを訊くのは拙いかな。

「退役しますよ」
俺が答えると皆が驚いたように俺を見た。信じられない事を聞いた、そんな感じだ。
「この先さらに戦争を継続するなどという馬鹿げた行為には付き合いきれません。退役します」

あらあら今度は固まっている。そんなに変なこと言ったか? この先戦争をするとなればイゼルローン要塞攻略か、フェザーンから帝国領へ侵攻しての戦いになる。碌なことにはならないだろう、どちらも御免
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