第五章
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「嘆かわしいことです、この越後すらも」
「心のない強さがはびこっています」
「では私はまことの力を備え」
「天下を泰平にしたいですか」
「是非共」
正しき心のままだ、虎千代は答えた。
「そうしたいです」
「ではよいですね」
「わかりました、それでは」
「御仏のことも学ぶのです」
是非にというのだ。
「武芸を学ぶと共に」
「では私は仏門に入り」
「仏門においても毘沙門天様のお力を備えられれば」
「天下にまことの力で泰平をもたらせられますね」
「その為にはいいですね」
「わかりました」
虎千代はこれまでにないはっきりとした言葉で御前に答えた、そうしてだった。
彼はこの時から仏門のことも熱心に学ぶ様になった、とりわけ毘沙門天への信仰は誰よりも篤いものになった。
その彼を見てだ、家臣達は言うのだった。
「いや、虎千代様は変わられたな」
「うむ、これまで通り武芸もしておられるが」
「それと同じだけ仏門のことも学ばれる様になられた」
「そのご生活も僧侶のそれになられた」
「まさに別人じゃ」
「うって変わられたわ」
このことに驚きほっとするのだった、そして。
そのうえでだ、こうも言うのだった。
「全て奥方様のお陰じゃ」
「あの方が虎千代様にお話されてじゃ」
「虎千代様は変わられた」
「よいことじゃ」
そうなったとだ、こう話してだった。
彼等は胸を撫で下ろした、これで虎千代が無事に出家して以後はつつがなく僧侶として生きてくれると思ったのだ。
しかしことはそう思い通りにはいかない、為景が死去し晴景が跡を継いだが。
病弱の彼に代わってだった、その虎千代がだった。
先に還俗していたこともあり長尾家の主となった、そのうえで東に西に戦い。
負け知らずだった、戦えばその都度鮮やかなまでに勝つ彼を見てだ、かつて彼に困り果てていた家臣達は驚いて言うのだった。
「何と、軍神か」
「景虎様は軍神なのか」
「為景様でもここまでお強くはなかったぞ」
「どんな相手にも必ず勝たれる」
「まさに軍神じゃ」
「いや、毘沙門天様じゃ」
景虎が信仰しているこの仏にも例えられるのだった。
「まさに降魔のな」
「そして天下をまことのお力で収められるな」
「そうした方じゃな」
「そうじゃな」
こう言うのだった、そして景虎自身もだ。
常に信仰と正なる心を忘れずにだ、自ら戦の場に立ち言うのだった。
「いざ、魔を降す為に出陣です!」
「はっ、それでは」
「今より」
「毘沙門天様のお力によりこの乱れた天下を正すのです!」
こう言い自ら陣頭に立つ、その姿はまさに毘沙門天そのものだった。全ては母に教えられたあの日からはじまることだった。
悪童 完
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