第三章
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御前は立った、そのうえで我が子に言うのだ。
「では」
「はい、それでは」
虎千代は御前に笑顔で応えた、そしてだった。
二人で城のある場所に行く、そこに向かう途中に。
虎千代は怪訝な顔になった、そのうえで母に問うた。
「あの、何処に」
「悪い場所ではありません」
「そうなのですか」
「そうです。母がそなたを悪い場所に連れて行ったことはありますか」
「ありません」
記憶にない、虎千代は確かに暴れん坊だが素直な子だ、それで今も母の問いに素直に答えたのである。
「一度も」
「そうですね、それでは」
「はい、今から行く場所もですね」
「悪い場所ではありません。むしろ」
悪い場所ではない、それどころかだというのだ。
「そなたにとっていい場所ですので」
「私にとってですか」
「そうです」
それ故にだというのだ。
「共に向かい。そして」
「そして?」
「最後までいるのです。いいですね」
「いるのですか」
行くことはわかった、だがいるということはわからずだ。虎千代は母の今の言葉には目をしばたかせて問うた。
「それはどういうことでしょうか」
「行けばわかります」
御前は今も言わない、しかしだった。
虎千代はその母に素直についてくる、そしてだった。
その着いた場所はだ、何処かというと。
城の本堂だった、そこは虎千代が城の中で最も嫌う場所だった。それで虎千代は嫌な顔になり母に言った。
「母上、私はこの場所は」
「母と約束しましたね」
咎める声ではなかった、ただこう言っただけだった。
「最後までいると」
「そうです、そのことは」
「そなたは約束は守りますね」
「約は破ってはならないものです」
虎千代はこのことにも毅然として答えた。彼はそうしたことにはことの他厳しく自分自身にも常に言い聞かせているのだ。
その彼だからこそだ、母にもこう答えた。
「絶対に」
「そうですね、だからこそです」
「今はですか」
「最後までここにいますね」
「います」
確かにいたくうはない場所だ、だがだった。
それ以上に約は違えられない、それでだった。
虎千代は嫌々ながらも頷いた、そのうえで答えた。
「必ず」
「それではです」
「はい、最後まで母上と共にいます」
「それでは」
こうしてだった、最後までだった。
虎千代は最後まで母と共に本堂にいることにした。そのうえで本堂を見回す。その線香の香りも嫌だった。
そして本尊もだ、厳しい怒ったその顔を見て言うのだった。
「この御仏はどなたですか?」
「毘沙門天です」
御前は既に本尊の前に座っている、そのうえで己の隣にまだ立っている我が子に対して答えたのである。
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