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ロシアのお婆さん
第四章

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「それで着られるだけ長くね」
「着るんだ」
「そうしているんだ」
「そうだよ」
 まさにだ、そうしているというのだ。
「ずっとね」
「そんなことしなくてもお母さんが買ってくれるのに」
「お父さんだって服を一杯持ってるよ」
「僕達だってそうだし」
「新しい服どんどん買えるのに」
 孫達はお婆さんの言葉に怪訝な顔になって返した。今は暖炉の傍で母の買ってくれた積み木のおもちゃで楽しく遊びながら自分達の祖母と遊んでいるのだ。
「お祖母ちゃんだけどうして?」
「それでいいの?」
「いいんだよ、お祖母ちゃんはね」
 古い服でだというのだ。
「充分だよ」
「お祖母ちゃんがそう言うのならいいけれど」
「満足してるんなら」
 孫達も言うことはなかった、祖母が幸せなら。
 けれどだ、それでも言うのだった。
「けれど古い服で質素な食べもので」
「お菓子だって昔のものばかり食べてるし」
「それでもいいんだ、お祖母ちゃんは」
「幸せなんだね」
「何も困ったことはないよ」
 やはりこう言うのだった。
「お祖母ちゃんはね」
「じゃあこれからも?」
「これからもこれでいいの?」
「あんた達とお家と食べるものと着るものがあればね」
 それでだというのだ。
「私は何もいらないよ。むしろね」
「むしろ?」
「むしろっていうと?」
「幸せ過ぎるね」
 そこまでだというのだ。
「私は」
「そうなんだ」
「幸せ過ぎるんだ」
「果報者だよ、私は」
 お婆さんはこうも言う、それも心から。
「だからいいよ、じゃあ後でね」
「うん、そろそろおやつだね」
「おやつの時間だね」
「そうだよ、紅茶をジャムを舐めながら飲んでね」
 ロシアの紅茶の飲み方だ、実はロシア人はジャムを紅茶の中に入れて飲むことはしない。この辺り誤解されている。
「ケーキを食べようね」
「僕達は柔らかいケーキだけれど」
「お祖母ちゃんは硬いケーキだよね」
 ロシアの本来のケーキである。
「あれだよね」
「あれを食べるんだよね」
「お祖母ちゃんはあれが好きだからね」
 今のロシアでは質素なお菓子とされている、いささか時代遅れなそれを食べるというのだ。そうしたことを話してだった。
 実際に孫達が食べる西欧の柔らかいケーキを食べる孫達を見て目を細めさせるのだった。そしてそのケーキを欲しがることはなかった。
 娘に西洋のケーキを出されてもだ、こう言うだけだった。
「あんたが食べればいいじゃない」
「一回でも食べたら?」
「いいんだよ、私はね」
「やっぱり昔のケーキでいいのね」
「ロシアのね」
 やはり食べたいのはそれだった。
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