第十一話 幼児期J
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ついにこの日が来たか、と少年は心のどこかで思っていた。
「アルヴィンはどうしたい?」
そう問いかけてくる男性を、アルヴィンはただ静かに見つめていた。ようやく歩くのも話すのもおおよそできるようになった時期。このぐらいになると自我が芽生え始め、自分の意思を主張することができる。
だから、わざわざ2歳の子どもにも聞いてくれたのだろう。大人だけで決めずに、少年の意思をこうして目を合わせて真剣に聞いてくれる。この男性といた2年間で、アルヴィンは男性の性格をある程度理解していた。
仕事馬鹿で、責任感もある。けど色々ルーズすぎて、見ていて心配になるところもある。あまり一緒にいられる時間は多くなかったけれど、時間の限り遊んでくれた。子ども好きで、……優し過ぎる人。
「……俺は」
この問いかけの答えは2つ。だからこそアルヴィンは言葉に詰まる。今の年齢通りの思考だったのなら、この男性の質問の意味もわからなかっただろう。応じた答えによってどう未来が変わるのか想像もできなかっただろう。
だけどアルヴィンには、それを思考することも想像することもできた。いつか来るかもしれないと、この日を予想していたのだから。彼なりにこの未来を回避するために動いてはいた。
もともと仕事の関係上、お互いに忙しい身だった。顔を合わせる機会が減るにつれ、互いに遠慮し出すようになるぐらいには。それでも子どもがいるのだからとやり繰りをしていたが、それに止めを刺したのは、駆動炉の開発の主任に彼女が選ばれてしまったことだった。
寮生活になり、今住んでいるクラナガンを離れる必要がある。しかし彼はクラナガンを離れられない。それが、今まで以上に2人の距離を開けてしまった。
でも2人が随分悩んでいたのを知っていた。最後の最後まで俺たちを心配して、何度も話し合っていたのがわかっていた。だから、アルヴィンはどんな結果になっても、それを受け入れることにしていた。
そして受け入れたからこそ、この2択が自身に迫られることも理解していた。アルヴィン自身、彼が嫌いではない。むしろ好感を持っている。どこかほっとけないし、1人にさせるのは心配だと思っていた。それに双子の妹は彼女と一緒じゃなきゃいやだ、と絶対に譲らなかった。
大切な妹と離れ離れになるのは寂しいが、それでもこの男性のためなら我慢できるほどには、アルヴィンにとって大切な人だった。
「ごめんなさい…」
「……そうか」
それでも、アルヴィンは選んだ。男性の表情が一瞬、寂しげに映ったことに揺らぎそうになりながらも、ずっと決めていた答えを口にした。
迷いはあった。でも、譲れないものがあった。将来いやなことや、辛いこともあるかもしれない。誰かを失う
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