第一部 vs.まもの!
第9話 こえがきこえる!
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「先生が言ってたやつ、見つけて書き写して来ました」
ウェルドは眉間に皺を寄せ、
「でもこれ、どこかで聞いた事があるような……」
「構いませんよ。読んでみてください」
ウェルドは荷袋から借りていたペンと紙を出し、広げた。
〈この扉を潜る者、全ての未練を捨てよ〉
「これが一つ目の碑文ですね」
ウェルドは続きを読み上げる。
〈闇に閉ざされし黒き羨道を潜り
アスラ・ファエルの太陽を浴びし者が
もはや故郷の土を踏む事はなく
地上において崖の風が連れ戻す闇夜について思い起こす事もない
アスラ・ファエルの不滅の果実を求むる者は
腐敗の海を漂う現世の恵みを恋うる事がない
地上においては月が死と恐怖の頂点に君臨し
故郷の町が砂と消えゆくを知る由もない
アスラ・ファエルの意思と秩序を司る
紫の剣に傅く者は
驚くべき審問官の手によりて
隠されし千尋の知恵と慈愛の海に見え
ふたたび悩むる事も嘆く事もない〉
紙を机の上に置く。クムランはニコニコしながら朗読を聞いていた。
「では、ウェルド君、その詩をどこで見聞きしたのか思い出せますか?」
「いえ、どうにも」
「ディアス君、もしわかるなら、解説してくれますか?」
石板に詰まった石の削り滓を刷毛で取り除いていたディアスが顔を上げた。
「『リトアラの殲滅』の一節か……。五千年前、アノイア教が興った頃、結束したアノイア教徒たちはリトアラ――現在のレノス教皇領にて弾圧者達の主力部隊を撃滅した。だが、その後も当時少数だったアノイア教への弾圧と差別が止むことはなく、信徒たちは預言者の導きによって知られざる都アスラ・ファエルへの移住を余儀なくされる。その後リトアラを占拠した古代マゴリア帝国の要人たちは、欲と酒色に溺れ、民の心も荒れた。その状況に怒りし神はリトアラのマゴリア人たちを塩柱に変えて滅ぼす。
『リトアラの殲滅』は、唯一死を免れた敬虔な娘によって書かれた詩だ。娘はその後アノイアの教皇となり、現在のアノイア教総本部としてのレノスを築き上げた。……以上、誤りはないか」
「完璧です」
ウェルドはけったくそ悪くなった。
「では、ウェルド君、その詩がどこに書かれていたのかディアス君に教えてください」
「アスラ・ファエルの太陽神殿の入り口だ」
これまで他人事として聞いていたディアスが、初めてウェルドを見た。暗い目に鋭い光が走る。興味を持ったようだ。
「そうか、俺が通った時には気が付かなかった……しかし初耳だ、アスラ・ファエルの入り口にその詩が刻まれているとは」
「この件はカルス・バスティードの外にまだ公表していない情報ですからね。さて、リトアラから預言者の導きによりアスラ・ファエルの地に
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