第一部 vs.まもの!
第9話 こえがきこえる!
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んだったね。でも、一人で大丈夫かい?」
「ああ。ここには魔物もいねえようだしな」
「わかった。でもどうか油断しないで気を付けてくれ」
「心配いらねえって。じゃあな」
ウェルドは手をひらひら振った。
「あっ、そうだ、アーサー」
「なんだい?」
「邪険にして悪かったな」
「えっ?」
「……なんでも。じゃ、さっきはありがとな。命拾いしたぜ」
「そんな事、礼には及ばないよ。僕で力になれるなら、またいつでも誘ってくれ!」
「じゃあね、ウェルドさん! 頑張ってね!」
サラもエプロンをふわりと翻し、歩いて行った。
※
時の行路図を使って町に戻ると、まず最初にクムランの家に向かった。時の行路図によればこの家を出発してから丸一日と十時間が経過しており、訪れるには非常識な時間ではないかと躊躇いつつも戸を開けると、思いもしない先客がいた。
「げっ」
その人物はゆっくり顔を上げ、ウェルドと目を合わせた。
「なんであんたがいるんだよ?」
「いてはいけないか」
ウェルドが眉を顰めている間に、ディアスは膝に目を戻す。彼は膝の上に石板を置き、文字を彫りこんでいた。近付いて覗きこむと、古代レノス文字の呪文だった。傍らの本から写している。
「離れろ。手許が暗くなる」
奥の部屋の戸が開いて、クムランが顔を見せた。
「おかえりなさい、ウェルド君」
「ああ、クムラン先生、すみません。夜分遅くに」
「いいえ。心配していましたよ。挨拶に来てくれて安心しました。僕も作業が一段落したところです。お茶にしましょう。ディアス君も、そろそろ休憩にしませんか?」
石板を削る音が途切れ、
「……構わないでくれ。じき退去する」
ウェルドはディアスとクムランの顔を交互に見比べ、無言で問いかけた。
「ああ、彼は新しい魔法を覚えに来たんです。嬉しいですよ。僕を訪ねてくれるのは、バルデスさんとノエルさんと、ウェルド君くらいですからね」
「ここには本がたくさんある。退屈しない」
「そう言ってくれると光栄ですね。本も喜ぶでしょう。それより本当に、ディアス君も休憩した方がいい。何時間も同じ姿勢でいるのは健康によくありません。お茶にしましょう。何が好きですか?」
「……では、水を」
ウェルドは
「はあぁ!? なぁーにが『では水を』だ偉そうに、手伝えやてめぇこの野郎!」
と(心の中で)言いながらクムランが茶を淹れるのを手伝い、ディアスの目の前に井戸水の入ったコップをドカンと置いてやった。
「クムラン先生は今は何の仕事をされてらっしゃるんですか?」
三人は同じテーブルを囲んだ。
「世界百科事典改訂版のアスラ・ファエルに関する項目の執筆を任されてましてね。最新の情報の精査がなかなか終わらず徹夜続きですよ。ウェルド君はどうでしたか?」
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