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東方攻勢録
第四話
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れたんだもん」
 何十年も人と出会っていなかったふみ江にとって、妹紅は大事な事を思い出させてくれた恩人のようなものだった。彼女が言ってくれた「ついてこい」の一言が消えかけていた温もりを呼び戻し、彼女の暗かった日々を明るい日々へと変えてくれた。だから彼女は妹紅に礼を言いたくて現れたのだろう。
 だが妹紅にとっては全くの間逆だった。
「そんなの……礼を言いたいのは私のほうだよ……」
 ふみ江より長く生きていた妹紅にとっては、彼女こそか自分の心の支えとなっていた。退屈だった日々も彼女と過ごすことで楽しかった日々へと変り、ふみ江は妹紅にとって久々の友達……いや、親友だったのかもしれない。
「……あははっ。なんかお互い様って感じがするね」
 妹紅の話を聞いたふみ江は笑いながらそう言った。
「……悪いかよ」
「ううん。嬉しいよ?」
 そう言った後二人はしばらく笑い続けた。ふみ江が死んだことも一時的に忘れ、気が済むまで笑いあった。だがこうしていられる時間ももう僅か。そう思うと悲しみも込み上げてきたが、無理やり笑い続けることでその感情を抑えつけた。
 そしてその時は突然やってくる。
「はあ……妹紅ちゃん、私そろそろ行かないと……」
「えっ……?」
 ふみ江がそう言った瞬間妹紅から笑顔が消え去った。
「ねえ、最後にお願い……聞いてもらってもいい?」
「さい……ご?」
 そう聞き返すとふみ江は小さくうなずく。すると彼女は自分の死体に近づき、懐かしそうな顔をしながら口を開いた。
「私が持ってた髪飾り……覚えてる?」
「……ああ」
「それを持って行ってほしいの」
 ふみ江は優しく微笑みかけながらそう言った。
「えっ……でも……」
「大事なものなんだ。それを妹紅ちゃんに持ってて欲しい」
 そう言われた妹紅は少しためらうそぶりを見せたが、その後何かを決心したように表情を引き締めると彼女の死体に近づく。そのまま彼女の懐から大事にしていた髪飾りを取り出した。奇跡的に傷一つはいっておらず、金属と宝石の光沢で美しくきらめいていた。
 妹紅は数秒間それを眺めた後、自分の懐へ大事にしまう。それを見ていたふみ江は安心したような表情を浮かべていた。
「ありがとう……妹紅ちゃん」
 そう言った彼女の足元は、まるで成仏し始めたかのように消え始めていた。妹紅はそれを見ながらすべてを悟り、また大粒の涙をこぼす。
「いやだ……いやだよふみ江!」
「大丈夫だよ妹紅ちゃん。きっとまた……理解してくれる人と出会えるはずだよ」
「でも! それでもいやだよ!」
 妹紅は必死に手をのばし彼女を求めようとする。しかし彼女の体はもうほとんど消えかかり、目に見えなくなるのも時間の問題だった。
「……ありがとう……さよなら」
 ふみ江は最後に悲しそうな笑みを浮かべたま
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