暁 〜小説投稿サイト〜
東方攻勢録
第四話
[2/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
。しかし彼女の感じていた違和感も同時に確実なものとなった。
「……えっ?」
 ふみ江の顔の部分は体の揺れに合わせて揺れることがなかったのだ。はたから見れば彼女の体と胴体は繋がっているようにみえる。しかしよく首元を見てみれば、傷口はふさがっておらずそのままくっきりと残っていた。要するに彼女の体と頭はまだつながっていないということだ。
「おいおい……どういうこと……だよ」
 しだいに焦りの色を見せ始める妹紅。なんとも言えない感覚に襲われて、体中が寒気に襲われ始めていた。
「そっそうか! あれだけ重症だったら治癒に時間がかかるのか! そうだよな?」
 なにも言わない彼女に向けてそう言った妹紅は、現実から離れようともっともらしい事を言っているようにしか見えなかった。
 しかしそれから何分と待っても彼女の傷口は癒えない。彼女の心は少しずつ傷がつけられ始めていた。
「おい……ふみ江、冗談でやってるなら早く起きてくれよ……私怒るぞ?」
 問いかけても何も言わないふみ江。妹紅は急に立ち上がると、大粒の涙をこぼしながら彼女の顔をつかんだ。
「なんでだよ! お前不老不死なんだろ!? だったらもう戻ってきてもいいはずなんじゃねえのかよ!!」
 どれだけ怒鳴ろうが彼女が急にしゃべり始める事はない。眉間にしわをつけたままの妹紅だったが、徐々にそのしわもなくなり悲しみが顔に浮かび始めてきた。
「頼むよ……なあ、笑って冗談だよって言ってくれよ……」
 ついに顔だけの彼女を抱きしめると、涙を流しながらその場に倒れ込んだ。
「私を……一人にしないでよ……」


 ふみ江が動かなくなってから一日がたった。依然と彼女は動こうとはせず、妹紅自身も人形のように気が抜けたまま動ごこうとはしない。いま思っても彼女が死んだなんて考えられないだろう。
「……ふみ江……動けるか……?」
 妹紅の声はもう気力を感じられるほど大きくはなかった。それに彼女の目は大きくはれ上がり、おまけにくまも出来あがっている。目もほとんどかすんで見えていなかった。
「……」
 妹紅は急に立ち上がると、手のひらに炎を作り出して自分の服に火をつける。たちまち彼女の体は燃え上がり、黒くなってその場に倒れた。
 しかしその数秒後には新しい彼女が出来あがる。蓬莱の薬で魂の状態になった彼女に死が言い渡される事はなかった。
「……なんで……なんで……」
 そう呟きながらまたその場に座り込む妹紅。夜が明けてからずっとこの調子で、何度も自分の服に火をつけて死のうとしている。今の彼女にもう現実と向き合って立ち直る気力などどこにもなかった。
「……」
 なにも考えずじっと空を見つめる。自分が何のために生きているのかわからず、かといって死ぬことも許されない。完全に生き地獄のなかに埋もれていた。
 もう
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ