T シグナル・アロー (3)
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を巡らせた
麻衣には僕の部屋に泊まってもらった。行く宛てがない彼女を放り出すなんて真似はできない。麻衣が僕の予想通りの人物ならばなおのこと。
僕は麻衣が眠ってからマンションを出て、建物の裏手に回り込んだ。生垣のある歩道で待つ。昼のあれが来るかもしれないのに単身こういう行動に出られたのにはれっきとした理由がある。
「――どういうつもりですか」
闇の中がみよん、と伸びて、表面張力が切れたところで白猫が出てきた。麻衣がこちらに来たきっかけも白猫だった。
白猫がこれまたみよーんと伸びてそれが段々とヒトの形を作った。
白い女だ。服装はパステルカラーで髪も銀に近いプラチナブロンドだから白いというのは語弊があるかもしれない。強いて言うなら雪花石膏の肌が白のイメージを与える程度。それでも彼女はまぎれもなく白だ。
白い魔女。この事態の仕掛け人。
「麻衣はあの谷山麻衣なんですね。それもまだ若い頃の」
「ええ。貴方という存在を育て上げた最大の存在である谷山麻衣。私がこの世界に連れて来たわ」
あたまが沸騰しそうだ。
「何故連れてきたんですか! よりによって、まだ何も知らないあの人を!」
白い魔女は淡々としたものだった。
「まだ『谷山麻衣』である彼女でなければ、異分子を排除しようとする働きに引っかからずに貴方の世界に召喚することはできなかった。この世界には谷山麻衣が必要。貴方の名前を呼んでもらうために」
「なま、え」
「『ナル』ではない、貴方の本当の名前。名付けた親にしか呼べない貴方という個を表す名前」
この女は魔女だ。知っていても当然だ。
――僕には実の両親しか呼ばなかった秘密の名がある。周囲には英名で通したが、親子だけになると父も母も必ずその名で僕を呼んだ。両親が死んだ今となっては誰もその名で僕を呼ばない。
「産み直しの儀式。真実の名を呼ぶことで貴方に再び『貴方』としての命を吹き込む」
絶句した。
そんなこと誰も頼んでない。僕の望みはそんなことじゃない。本当の僕は十年前に殺されてもう息を吹き返すことはない。だから僕は「ナル」として生きてきたんだ。死んだ僕がかぶれる皮は「ナル」しかなかったから。それを今さらになって。
「そんな度外れてふざけた親切を施そうってのか! あの女を殺しにいく直前になって! あんな人までここに引っ張り出してきて!」
白い魔女は吐き気がするほど無表情だ。
「それが私の『正義』。欠ける者なき理想の庭を造る。貴方を死なせない。セカイを変える。それが私の『理想』」
僕の師に当たる女性が言っていた。こいつは、目の前の白い魔女は、この世で最も業深い名を冠している。本当だった。
「――もういい。あ
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