暁 〜小説投稿サイト〜
Meet again my…
T シグナル・アロー (3)
[2/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
言は正解であると同時に、「ナル」が僕の想定していた人物と同一だという可能性を一気に高めた。

「僕との違いは?」
「服装とあたしへの二人称かな。あたしのナルは『お前』って言うし、いっつも黒い服ばっか着てる。黒じゃないのなんて、寝る時くらいかな」

 黒。彼のパーソナルカラーだ。仮説が補強されてしまった。

「なぜ就寝時の格好まで知っているか訊いていいか」
「何でって、その…まあ…時々泊まりにいくから。ホントに時々。だ、だってそういう関係なんだもん! しょーがないじゃんっ」

 「ナル」とそういう関係ならさもありなん。これは二つ目の仮説が正解である目算が高くなった。

「……冗談にしては笑えない」
「冗談でこんな恥ずかしいこと言えるかあっ!」
「口でなら何とでも言えるな」

 僕が冗談だと言ったのは君の発言じゃなく、君が他でもない僕の前にいるという状況そのものなんだけどな。

「いーよ。なら証拠になるようなこと言ってあげてもいいけど? まずー、ナルの朝の日課は太極拳」
「それがどうした」

 僕の日課でもある。純粋に肉体を鍛える目的でやっているという違いはあるが。

「OK、じゃ速攻でとっておきを。一応あたしたち恋人同士だし、まあ夜のお付き合いってのもあってね、その時ナルは耳たぶの裏にキスすると結構……」
「分かった。それ以上言わなくていい。むしろ言うな」

 そんな当人同士の事情を赤裸々に語らないでくれ。親の情事を知ってしまった子の気持ちが今よーく理解できた。

「名前は?」
「へ。あ、あたしの?」
「この場には君しかいない」

 彼女はふくれっ面から回復してから、こてんと首を傾げて言った。

「麻衣。谷山麻衣」

 その名乗りで仮説は完成した。――ああ、こんな極上の悪夢があっていいものなのか。

「? どうかした?」
「いや。どこかで聞いたような気がしただけだ。思い出せたら言う。僕は」
「渋谷一也でしょ。本名はオリヴァー・デイヴィス。呼び方はナルでいいのかな?」
「……、それでいい。どうせ周りもそう呼んでいる」

 パーソナルデータは彼女がさっき述べた通りだ。今さら僕の名前を呼んでもらおうなんて思わない。

「僕は君をどう呼べばいい。何か希望があるなら聞く」
「お好きにどーぞ」
「じゃあ――麻衣」

 まさか僕が呼んでいたように呼ぶわけにもいかず、苦肉の策で呼び捨てにしてみた。麻衣は面食らっていた。まずい呼び方だったか?

「麻衣?」
「へ!? あ、いや、何でもないっ。ちょっとびっくりしただけ」
「そうか。間の抜けた顔をしたから何事かと思った」
「なにおーっ!?」

 憤慨する麻衣を躱しながら、この悪意の仕掛人をどう料理してやるかについて僕は考え
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ