T シグナル・アロー (3)
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言は正解であると同時に、「ナル」が僕の想定していた人物と同一だという可能性を一気に高めた。
「僕との違いは?」
「服装とあたしへの二人称かな。あたしのナルは『お前』って言うし、いっつも黒い服ばっか着てる。黒じゃないのなんて、寝る時くらいかな」
黒。彼のパーソナルカラーだ。仮説が補強されてしまった。
「なぜ就寝時の格好まで知っているか訊いていいか」
「何でって、その…まあ…時々泊まりにいくから。ホントに時々。だ、だってそういう関係なんだもん! しょーがないじゃんっ」
「ナル」とそういう関係ならさもありなん。これは二つ目の仮説が正解である目算が高くなった。
「……冗談にしては笑えない」
「冗談でこんな恥ずかしいこと言えるかあっ!」
「口でなら何とでも言えるな」
僕が冗談だと言ったのは君の発言じゃなく、君が他でもない僕の前にいるという状況そのものなんだけどな。
「いーよ。なら証拠になるようなこと言ってあげてもいいけど? まずー、ナルの朝の日課は太極拳」
「それがどうした」
僕の日課でもある。純粋に肉体を鍛える目的でやっているという違いはあるが。
「OK、じゃ速攻でとっておきを。一応あたしたち恋人同士だし、まあ夜のお付き合いってのもあってね、その時ナルは耳たぶの裏にキスすると結構……」
「分かった。それ以上言わなくていい。むしろ言うな」
そんな当人同士の事情を赤裸々に語らないでくれ。親の情事を知ってしまった子の気持ちが今よーく理解できた。
「名前は?」
「へ。あ、あたしの?」
「この場には君しかいない」
彼女はふくれっ面から回復してから、こてんと首を傾げて言った。
「麻衣。谷山麻衣」
その名乗りで仮説は完成した。――ああ、こんな極上の悪夢があっていいものなのか。
「? どうかした?」
「いや。どこかで聞いたような気がしただけだ。思い出せたら言う。僕は」
「渋谷一也でしょ。本名はオリヴァー・デイヴィス。呼び方はナルでいいのかな?」
「……、それでいい。どうせ周りもそう呼んでいる」
パーソナルデータは彼女がさっき述べた通りだ。今さら僕の名前を呼んでもらおうなんて思わない。
「僕は君をどう呼べばいい。何か希望があるなら聞く」
「お好きにどーぞ」
「じゃあ――麻衣」
まさか僕が呼んでいたように呼ぶわけにもいかず、苦肉の策で呼び捨てにしてみた。麻衣は面食らっていた。まずい呼び方だったか?
「麻衣?」
「へ!? あ、いや、何でもないっ。ちょっとびっくりしただけ」
「そうか。間の抜けた顔をしたから何事かと思った」
「なにおーっ!?」
憤慨する麻衣を躱しながら、この悪意の仕掛人をどう料理してやるかについて僕は考え
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