T シグナル・アロー (2)
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こいつら! 彼女の足を這い上がろうとしている!
「もういいっ、下がれ」
僕は彼女の肩を掴んで安全圏に引き入れた。彼女はしりもちをついたが、今は構っていられない。コンクリートの割れ目を見定めて、プルパを突き立てるように投擲した。
蒼白いスパークがあって、土蜘蛛は一匹残らず掻き消えた。
――さすがは滝川さん折り紙付きの仏具。試作品でこの威力か。
「何、今の」
「チベット仏教で魔を退ける法具。本来は儀式用だが、知り合いに実戦用に改造してもらった」
言って、彼女を睨んだ。口にはしないが僕は怒っているんだぞ。元来気の長いほうじゃないんだ。今回は土蜘蛛だったからよかったけれど、もしこれが本物の毒蜘蛛だったらどうなっていたか。
彼女はたじろいでいる。それはそうだろう。
「君は一体何者だ? 何故僕を知っている? 退魔法を使えるなら霊能者だろうが、何故わざわざ自分から、見ず知らずの人間のために危険に飛び込んだんだ」
「だーかーらー! 見ず知らずじゃないんだってば。あたしはアンタをよく知ってるし、むしろメチャクチャ親しい部類に入るんだよ!」
「生憎来日したばかりで他人と知り合う余裕はなかったんですがね」
「来日したばかり?」
なんだ、その不思議そうな顔は。確かに僕はクオーターを通り越して八分の一しか欧州の血は入ってないが、国籍はれっきとしたイギリス人だぞ――と懇切丁寧に説明すべきか?
悩んでいると、彼女まで何やら悩み始めた。いや、そこで君まで悩まれたら話が進まないだろうが。
しかし、土蜘蛛相手にプルパをすぐ使ったことといい、彼女を巻き込んだことといい。
「まずい状況になったな」
「何が?」
――これ以上は彼女を巻き込めない。
「君には関係ない」
彼女はむっとしたようだった。ほんと、よくころころと表情が変わる人だ。
「あのね。あたしだって一応拝み屋見習いだから、さっきのを説明してくんないと収まりつかないの。それにナルがピンチになってあたしが見捨てられるわけないじゃない。だからこれから何か危ないことがあるなら、あたし、ナルにもっと付きまとうよ」
それは困るんだが。何だって彼女は僕を親しい友人のように呼んで気に懸けるんだ。
彼女は一見して愛嬌のある怒り方をしているが、まんまるな目は真剣な光を宿している。説明しなければ引かないぞ、とその目は言っている。ため息が出た。
「先手を打たれた。向こうに僕の位置を知られる前に叩く手筈だったのに」
「それって、誰がやったかナルは分かってるってこと?」
「いちおう。――それより君、今のことはどう責任をとってくれるのかな」
非難すれば、彼女は今日出会ってから何度目か、たじろぐ様子を見せた。よし、このまま押そう。
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