第八章
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たようであった。
「それでどっかで満足したり気付いたりして」
「やっていくんですな」
「そうですわ。御主人様は奥さんに気付かれましたな」
「ええ」
何度目かわからないが彼の言葉に頷いた。
「これでやっと」
「それではそれを見て前を向いて行くとええですわ」
背中を前に押すようにして言葉を出したのだった。
「そうして二人で行けば」
「間違いはないと」
「私はそう思います」
「わかりました。そうでしたら」
ようやく全てがわかった。実に晴れやかな顔になった。
「女遊びからは卒業してこらからは」
「そうです。色々寄り道をしても」
「二人でいきますわ」
「はい。それでは」
「ええ、これで」
笑顔で応える。
「店に戻らせてもらいます。女房の顔が見たくなりましたんで」
「私も。それでは」
「どちらへ?」
「私の行くところは一つですわ」
穏やかな、それでいて実に晴れやかな笑みで菊五郎に述べる。
「御仏のおられるところへ」
「そうでっか。ほなこれで」
「はい」
二人は別れた。そうして菊五郎は店に帰った。店に帰ってみるとサトがいつものように上手く切り盛りしていた。彼女は夫に気付いて声をかけてきた。
「おかえり」
「ああ」
にこりと笑った。茶室での笑みであった。
「今帰ったで」
そうして女房に声を返すのであった。
「ほなちょっと店の奥に行って」
サトは亭主にこう言うのだった。
「何かあるんか?」
「お得意様が来てますんや」
そう答える。
「あんたにお相手して欲しいんやけれど」
「ああ、それやったらわかった」
女房の言葉に鷹揚に頷いた。
「それはな。わての仕事やな」
「そやで大旦那の出番やで」
こうした大きな店での旦那の仕事は小さな店とは違う。絹や染物の職人を見つけ、見極めたり上客と話をしてつながりを深めていくことだ。それが菊五郎の仕事なのである。
「ほな頼むで」
「わかったわ。それでな」
ここでサトにまた声をかける。
「何や?」
「ずっと一緒やで」
女房にその笑みで言うのであった。
「ええな」
「何かわからへんけど」
そうは言いながらも悪い顔はしてはいなかった。
「わかったわ。じゃあいつも一緒な」
「ああ」
これが彼がサトのことを本当に大切に思ったはじまりだった。それから彼は女遊びはせず女房を大事にしていったという。しかしサト本人がそれに気付くことはなかった。自分のことによるものだとは。
女房の徳 完
2007・5・20
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