第五章
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怪訝な顔をしてそう述べる。
「元気なもんですわ。それがどうして」
「霊と言いましても色々おまして」
僧侶は茶碗を回していた。それが済むとまずは茶を飲んだ。
「色々?」
「はい」
今度は僧侶が答えた。彼の仕草もまた茶がわかっている丁寧なものであった。お互い風流がわかった者同士で茶を楽しんでもいたのである。
「死んだ人間のだけではおまへんのや」
「生きているもんでもあるんでっか」
「そういうことですわ。多分それでんな」
彼にそう述べる。
「話を聞く限りは」
「生きていても霊が出る」
「生霊というんですわ」
そう菊五郎に述べてきた。
「それは」
「生霊ですか」
「死んだ人のは死霊って言いますわ」
また説明する。
「これがあれでんな。よく言われる霊で」
「成程」
「生霊は魂が離れて出て来るもんなんで。お話を御聞きしたところまさにそれでんな」
「生霊でっか。それで」
菊五郎はそれを聞いて腕を組んだ。そうして考えに耽るのであった。
「あいつも覚えてないんですな」
「覚えてる場合もあるんですわ」
僧侶はこうも言う。
「まあそれはそれぞれで。どうやら今回は奥さんが寝てる間に身体から離れて御主人に教えに来たんですな」
「ふむ。あの女はやめとけと」
その言葉を聞いて頷く。
「そういうことでんな」
「ふうむ。危ない女のことを教えてくれた」
「ええ話でんな」
そう言ってにこりと笑ってきた。
「おかげで助かりましたんや。それででんな」
「はい」
話はここで少しよくない方向に進む。僧侶が真面目な顔から笑みに入ったのであった。
「遊郭のお話でんな」
「まあそうですわ。馴染みの」
「成程。まあ拙僧もあそこには行きますので」
「おやおや、それは」
褒められた話ではないが実際にそうした僧侶は今も昔もいるものである。まああまり酷くはない限りは大目に見てもらえることでもある。祇園にしろ僧侶は中々の上客でもあるのだ。
「それで何処のおなごでっしゃろ」
「それはでんな」
その店のことを言う。すると僧侶はまた納得した顔になるのであった。
「あそこでっか。あそこはええでんな」
「行かれたことあるんでっか」
「ええ。まあ少しですが」
「そこの二人のおなごのうちどちらかを選ぶことになりまして」
今度はその時のことを述べる。
「それで。岩手のおなごか秋田のおなごを」
「秋田の」
それを聞いた僧侶の目の色が変わった。剣呑なものになった。
「あの店の秋田のおなごでっか」
「ええ、そうですわ」
菊五郎は彼に答えて述べる。
「それが何か」
「奥さんに助けられましたな」
彼は真顔で菊五郎に述べてきた。
「全く以って。奥さんに感謝するべきですわ」
「何かありますんか?」
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