第四章
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て来たのであった。どうやら先程からそこで控えていたようだ。
「こちらの方をまずお風呂へ」
「わかりました」
「それからお軽のところへな」
「ほお、お軽っていいますんか」
菊五郎は遊女のその名前を聞いて面白そうに声をあげた。
「仮名手本忠臣蔵でんな」
「やっぱり承知でんな」
「あれは好きな演目ですわ」
また笑いながら主に答えた。
「廓文章と同じ位」
「そうでっか。それでは」
「はい」
こうして彼は風呂の後でそのお軽と楽しく遊んだ。女は噂に違わぬ美しさでしかも気立ても良かった。彼は一晩楽しく遊んだ後で家に帰った。そうして朝に開店の用意をしている女房に声をかけたのであった。一晩遊んだせいで上機嫌の顔になっていた。
「おう」
「ああ、今帰って来たんやね」
サトは店の前にいた。そこから彼に挨拶をしてきた。
「御飯は中に用意してあるで」
「そうか」
「お味噌汁とお豆腐でな」
「ええこっちゃ。ところでな」
「何や?」
亭主の言葉にまた顔を向けてきた。
「はよ食べて店の支度見るんやったら見てや。忙しいさかい」
「一つ聞きたいことがあるんや」
彼はここで昨夜のことを思い出して女房に問うてきた。
「聞きたいことって?」
「昨日の夜のことや」
彼は言う。
「御前あの娘のこと知ってたんか?」
「知ってた?」
亭主の言葉にキョトンとした顔をみせてきた。
「誰を?」
「誰をって御前」
ここで辺りを見回す。誰もいないのを確かめてから彼女にそっと囁いてきた。横目で見ながら。その横目は女房の顔をじっと見ていた。
「今は二人だけや。とぼける必要はないで」
「だから何をなん?」
しかしサトの様子は変わらない。相変わらずキョトンとしたものであった。
「とぼけるも何も」
「あれっ、御前」
女房が本当に何もわかっていない顔なのでこちらも戸惑いながら述べてきた。
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