少女の慟哭
[9/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
誰かの、秋斗のよく知っている最も憎いモノに似ていた。
――原因はそれか。自身の決断の甘さが許せず、自分を殺さなければと考えた結果、牡丹の髪留めを付けてそれを戒めとしたのか。だけど……
ゆっくりと息を落ち着かせた白蓮は秋斗が沈黙している事によって自分の決意が伝わったのだと考えて静かに声を流し始める。
「だからそれを返してくれ。これがあいつにしか似合わないのは分かってるさ。だけど私にはどうしても必要なんだ」
すっと目を細めた秋斗は牡丹の髪留めを白蓮に渡す……事は無く、自分の手の中でカチカチと音を鳴らす。まだ分かってくれないのかと迫ろうとした白蓮であったが、眉根を寄せた秋斗に哀しげな瞳を向けられて、自分から渡してくれるまで待とうと腰を落ち着けた。
「白蓮、お前の覚悟は立派だよ。自分のした決断を後悔して、二度と繰り返さないように甘さを捨てて目的を達成しようとするのは凄い事だ。でも、そんなに肩肘張らなくてもいいじゃないか。笑いたい時に笑って、怒りたい時に怒って、泣きたい時に泣けばいい。決意も覚悟もいいけど、今のお前は無理しすぎに見えるぞ」
先程とは打って変わった落ち着いた暖かい声音で話されて、白蓮の心に秋斗の心配が伝わり表情が曇る。それでも、自分の決めた事だからと頷く事は出来ない。
涙を流す事もしないと決めた。弱音も吐かないと決めた。だからその為に、それを戒めとして、自分を変えようと思っていたから。
ふいに立ち上がった秋斗は牡丹の髪留めを自分の座っていた椅子に置き、机の上の茶器にお茶を淹れはじめた。それを見て、はっとしたように白蓮は表情を変える。
「お前自身もどういう事か内心では分かってるだろう? そんなモノを付けなくても、自分を追い詰めなくても、焦らなくてもいいんだよ。ほら、お茶でも飲んで落ち着いた頭で考えてみろ。そうさな、今までの自分を思い返してみるのもいいかもしれない」
秋斗から差し出されたお茶を片手で受け取り、されども飲むことは無く、白蓮はじっと中を覗き込み始める。
戦の最中に星が言っていた通りの行動を秋斗が取った。そのなんでもない事のように行われた行動が焦りと周りからの想いの重責に凝り固まった頭を解していく。
揺蕩う薄い緑を見ている内に、白蓮は自分のこれまで生きてきた道を振り返ろうとして……何故か牡丹の事が思い浮かんだ。ずっと自分の隣に居たのだから、自分の事を思い出そうとすれば頭に浮かぶのは当然であった。
ずっと支えてくれたその存在が求めたのはどんな自分であったのか。
煩わしいと跳ね除け続けていた彼女が、星と秋斗の協力もあって絶対の忠臣であると気付いて認めた時、彼女は飛び切りの笑顔を見せてくれたのではなかったか。
その時から、牡丹は救われていたのではなかったか。
最後
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ