少女の慟哭
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いわけでは無い牡丹本人が残るとは露とも思っていなかった。
秋斗は自分の思考の浅はかさと予測の甘さに後悔が押し寄せる。白蓮が牡丹の判断によって助かった。だがそれでも、牡丹を助けられたのでは無いかと考えてしまうのは彼にとって詮無きこと。
「ここからは兵の報告から。牡丹は一番精強な張コウ隊の足止めに重点を置き、最後に一騎打ちをして敗北した。でも負けたけど生きていたらしい。袁紹軍は私も牡丹も星も生かして捕えようとしていたから。張コウも殺すつもりは無かったみたいで致命傷は与えてなかったようだ。死んだのは袁紹軍の兵による背後からの一撃。誰が命じたのかは分からないが……」
そこで言葉が止まり、秋斗は顔を上げる。白蓮を見ると迷いと憎悪が渦巻く瞳を携えていた。
「張コウは……牡丹の亡骸を本城まで持って行って丁重に葬ってくれたらしい。そういえば星も悪い奴では無いと判断してたな。……その張コウが兵に教えたんだと、郭図の命令によって牡丹は死んだとな。そうなると、牡丹の仇は誰なんだろうな」
自身の話した事のある張コウ――明を思い出して、秋斗は思考に潜る。
飄々とした態度で内側を読ませない明ならば、それくらいの嘘は簡単に付くだろう。情報を与えて混乱させるやり方は戦の常套手段。しかもわざわざそれを伝えるという事は……。白蓮が生き残れば行き着く先は劉備軍のみ。その中で一番仇討ちに染まりやすいのは誰か。
疑うならば、洛陽での夕による助力要請を先手として、間違いなく秋斗の思考を束縛しに来ている。
単純に信じるならば、孫策と同じように何か弱みを握られている為に表立っては動けず、内密に情報を与えて敵を明確にさせたと言っても良かった。
人を信じすぎるのは良くない。それは秋斗も分かっている。だから秋斗は、
「どうせ敵である事に変わりない。牡丹の仇を個人に特定しようとしなくていい。侵略を行った袁家全てが牡丹の、そしてお前の大切なモノ達の仇だ」
単純に考える事で情報による思考の束縛を打ち消す。さらには、白蓮の向けるモノを特定個人に対する憎しみにさせず、打倒すべき敵として明確に指し示した。
秋斗としては、夕が助けを求めてきたのだからと助けたい気持ちはあるが、自分の目的の邪魔になるのなら踏み潰すだけ。もはや細かい波紋で動じる事はない。
怒っているのか、憎しみがあるのかは分からなかったが、今まで聞いた事の無い秋斗の冷たい声音に、白蓮の背に寒気が走り、怯えが一寸だけ湧いてしまった。
――これがあの秋斗なのか? いや、私が知らなかっただけか。
白蓮は敵を見据える秋斗の事を知らない。心を凍らせて、敵対するモノを踏み潰す黒麒麟では無く、穏やかな瞳で自分に接する秋斗しか知らないのだ。
少しの怯えを見て取った秋斗はすぐに喉を鳴らして苦笑
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