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乱世の確率事象改変
少女の慟哭
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れだけは桃香では気付くことが出来なかった。弱さをさらけ出させて変えたのは秋斗であったのだから。一番最初に弱さを受け止めたのは彼と星だけだったのだから。
 きっと否定して拒絶するだろうから今はまだ何も言わない。そう決めて秋斗は次の確認をしようと意識を切り替えた。

「白蓮、その髪留めをよく見せてくれ」

 すっと目を細めて言い放つと、白蓮は訝しげな表情をしたがゆっくりと外してするりと髪を降ろし、髪留めを手渡した。
 まじまじと見やる秋斗は血のこびりついた部分を見つけて優しく撫でた。そこで漸く……牡丹が死んだ事を理解し、白蓮達が負けたという実感が湧いてきた。
 もう、これに留められて馬の尻尾のように揺れる茶髪は見る事が無いのだ。
 もう、うるさすぎる早口を聞くことも無いのだ。
 もう……バカにし合って、口喧嘩し合う事も出来ないのだと。
 押し寄せてきた急激な心の虚しさに手を胸に当てて耐える。白蓮はその様子を哀しそうにただ見ていた。
 秋斗の目から涙は零れ無い。ただ、ぽっかりと抜けてしまった心の穴があるだけ。徐晃隊の面々が死んだ時と似ているが違う。
 徐晃隊は彼の一部、切り刻まれるような痛みはあっても、抜け落ちたような虚無の感覚は無い。徐晃隊は秋斗にとって戦場を表すモノである為に。
 対して牡丹は……秋斗にとっての平穏の一部。それを失った事で一番穏やかな日常がもう戻っては来ないのだと強制的に感じさせられた為に穴が空いてしまった。

「辛いだろうけど牡丹の死に様を聞きたい」

 胸を押さえて俯いたままの秋斗から感情の籠らない声が発され、白蓮の耳に響く。疑問が浮かぶも、白蓮は何も言わずに秋斗の望む答えを口にした。

「張コウに情けを掛けられて逃がされた牡丹の部下からの話になるけど……いや、先にこっちからの方がいいか。捨て奸……お前が牡丹に教えた策で私達は助かった。牡丹はその策を遂行しきったんだ」

 目を見開いた秋斗は内心で舌打ちを一つ。確かに、その策を用いれば逃走に於いて生存確率は格段に上がる。徐晃隊の最終手段として日々練兵を行っているのはその為。それを牡丹に教えてしまったのは間違いであるのか、間違いではなかったのか。
 本来、教えた理由は牡丹が助かる為であったのだ。史実の関靖の玉砕特攻という死に方を知っている秋斗が、白蓮を支える事のみを生きる理由としている牡丹なら、兵に命じてこれを使って一緒に生き残ろうとすると判断してのこと。秋斗の失態は一つ。徐晃隊のように前もって準備しているわけで無いのならば、指揮をするモノは当然必要であるというのを考えていなかった事。
 教えたのは洛陽での酒宴、白蓮が寝てから星が厠に行った隙に。星に教えなかったのは個人武力が高いので、自身も残ろうとするのが間違い無かったからであり、そこまで武力が高
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