第一章
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ってきた。
「病気ですか」
「ええ、それをまず」
女遊びでいつも問題になるのはそれであった。梅毒、この時は瘡病と言った。身体のあちこちに赤い斑点ができてあげくには鼻が落ちて身体そのものが腐って死んでいく。これが一番恐れられていた。これに気をつけろとは当然のことであった。
「気にせいと」
「当然でんな」
「あれにかかったらほんま終わりでっせ」
「ええ、女房もそれを言うんですわ」
盃を右手にそう述べる。漆塗りの盃の赤いところに澄んだ酒が奇麗にたたえられている。
「それをまず気にしてくれ。そやから女は選んでくれと」
「成程」
「それはそうですな」
「それとですわ」
菊五郎はさらに言ってきた。
「それと?」
「子供ができた時ですわ」
これもまた付き物である。ましてやこの時代はそれなりの地位にある人間は妾を持つことも普通のことだった。政治家にしろ菊五郎のような金持ちにしろだ。だからサトもこれに関してもとやかくは言わなかったのである。普通のことでしかなかったからだ。
「その時は責任持って面倒見ろと。金はあるさかい」
「つまりはあれですな」
客の一人がそれに応えて言ってきた。
「責任持って子供として面倒見ろと」
「そういうことですな」
「その通りですわ」
笑って客達に答える。
「間違っても知らんとか言わんようにと。女の人と子供の一生潰すさかい」
「ううん、立派な奥さんですな」
「そこまで考えてはるとは」
「しかもこれだけやおまへん」
何とまだあるのだった。菊五郎は側にいる芸者に酒を入れてもらってさらに言う。
「そのおなご自体にも気をつけよと」
「あれっ」
「それって」
客達は豆腐にやる手を止めて問うてきた。話が戻ったと思ったからだ。
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