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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百九話 踏絵
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ク自治領主。国債は渡してもダミー会社は、いや正確には株と利権ですね、それは譲渡出来ませんか? 中途半端では意味が有りませんが』
『……分かった。全てそちらに譲渡する』
全面降伏だな、ボルテックは完全に打ちひしがれている。しかしこれでフェザーンの脅威からは解放された。

会議室には奇妙な空気が広がっていた。フェザーンの脅威から解放された安堵とヴァレンシュタインに対する畏怖。皆が顔を見合わせ時折ヴァレンシュタインを伏し目がちに見る事を繰り返した。畏れている、明らかに畏れている。私、トリューニヒト、ホアンの三人は多少は慣れている。しかし他のメンバーにとっては強烈なまでの洗礼だろう。

『それで、助けてくれるのだろうね』
もうボルテックには駆け引きをしようというような姿勢は見えない。敗北を認めフェザーンを貴族連合軍の横暴から解放する事だけを考えている様だ。だがヴァレンシュタインはそんなボルテックを無情に突き放した。

『これからそれを決めるんです』
皆が驚いたようにヴァレンシュタインを見た。条件はクリアした、そう思ったのだろう。
『……』
『勘違いしないでください。さっきの二条件の承諾はフェザーンが地球教と繋がっていないという事の証明でしかありません。こんなのは我々に助けを求める前に片付けておくべき問題ですよ』

スクリーンに映るヴァレンシュタインは冷たい眼をしていた。ボルテックに甘えるなと言いたいのか、或いは我々に甘いと言いたいのか。
『フェザーンは我々に何を提供できるのです? 或いはフェザーンを救う事にどんなメリットが有るのです? それによってフェザーンを救うか見捨てるかを決めます』
ボルテックが呻いた。眼が充血している、泣いているのか?

『君は未だ我々から血肉を毟ろうというのか、……君には良心という物が無いのか』
怨嗟、苦渋、絶望、血涙、言葉に表せばそうなるだろう。心の底から絞り出す様な声だった。だがヴァレンシュタインは
『良心? 外交交渉の場で良心とは……。呆れますね、自治領主閣下』
と笑いながらボルテックを一蹴した。演技では有るまい、本当におかしそうに笑っている。

『ボルテック自治領主、貴方は私の良識に訴えようとしたようですが良識とは受身に立たされた弱者の使う言葉なのですよ。行動の主導権をにぎった強者は常に非常識に行動します』
もう笑ってはいない。ヴァレンシュタインは冷めた目でボルテックを見ていた。それを見て誰かがごくりと喉を鳴らす。ここまであからさまに強者の論理を振りかざすとは思っていなかったのだろう。

『今のフェザーンは貴族連合軍に踏み躙られ帝国、同盟からも敵視されている。誰もフェザーンを救おうという者は居ません。フェザーンは孤立した弱者なのです。図らずも貴方自身の言葉がそれを証明した。そして今
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