緋色の空
[5/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
周りの評議員も後ろへと下がる。
それを見たクロノは一瞬目を見開き、微笑んだ。
「そうか、それならいいんだ。本気を出して潰しちまっても、文句はねえよなァ!」
そして、右手を前に突き出す。
目を閉じて、口を開く。
「雷神トールに命じる。“お前の鉄槌をオレに貸せ。短い柄は魔力で伸ばせ”」
その手に握られたのは鉄槌。
北欧神話にて雷神トールが振るったとされる、雷を象徴する武器、ミョルニル。
伸縮自在、投げてもブーメランのように戻ってきて、何をどのように打っても決して欠ける事はない強力無比な鉄槌の唯一の欠点『柄が少し短い事』を自分の魔力で補い、クロノは握りしめる。
「こうやってお前と戦うのは何年ぶりだったか・・・オレの“神話ノ語リ部”も強くなってんだって事忘れてねえよな?」
神話ノ語リ部。
神話をモチーフに使用する、使い方によっては様々な手段が取れる魔法。
クロノは雷神トールのミョルニルを“借り”、ナツと対峙する。
「来い」
「行くぞォ!」
ナツがクロノに向かって駆け出した。
その時――――――――
「もういい!!!!そこまでだ!!!!」
エルザが叫んだ。
ナツの動きが止まり、クロノが眉をピクリと上げる。
その場にいる全員の視線が、エルザへと向く。
「騒がしてすまない。責任は全て私が取る」
ざわっと空気がざわつく。
「ジェラールを・・・」
ラハールとジュラはエルザを見つめる。
ウェンディは涙を流す。
一夜は倒れた評議員に凭れ掛かるようにしてエルザに目を向ける。
「つれて・・・いけ・・・」
消え去りそうな小さな声で、エルザは呟く。
その言葉に、ジェラールが薄い笑みを浮かべた。
「エルザ!」
「チッ」
納得いかない、と言うようにナツが叫ぶ。
が、エルザの表情は長い髪に隠れて見えない。
クロノは小さく舌打ちをし、ミョルニルをトールに“返した”。
そして、ジェラールはエルザに背を向け―――――
「そうだ・・・」
「!」
何かに気づいたように、ジェラールが呟いた。
顔をエルザに向け、微笑む。
「お前の髪の色だった」
その言葉に、エルザは目を見開いた。
緋色の髪が、風に靡く。
「さよなら、エルザ」
告げる。
この別れが、永遠の別れと繋がる可能性は高い。
それでも、エルザは止めなかった。
「ああ」
ただ一言呟いて。
その返事を待っていたかのように、重い音を立てて扉が閉まった。
連合軍は、勝利に沸くはずだった。
だが、そこには歓声どころか笑顔もない。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]
しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ