心知れば迷いて
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が優しく撫でられた。
「そんな顔するな。月が心配してくれた、それだけで俺の心は暖かくなったから」
彼の声はいつかのように優しく私の耳に届く。ただ、その瞳には少しだけ後悔と自責の色が見えた。
どうして私に後悔の感情を向けるのか……考えるとすぐに予想出来た。この人は――
「秋斗さん。華雄さんの事は私の責なんですから、今更持ち出してはダメですよ? これは王を辞めたとしても私がずっと背負っていくモノです。だからどうか……自分を責めないで」
ピクリと眉を少し跳ねさせたので図星だったのだろう。本当にどうしようもなく責任感が強い人だから、私がこう言っても自分の事を責めてしまうのは分かってる。私が少しだけでも背負ってあげられていたらいいけれど……。
「……なぁ、月。お前さんは強いな」
どういう事だろう。私なんかよりも秋斗さんの方が凄いのに。自分で決めて自分で行動している彼と、流されて決めてきた私では比べ物にならないのに。
急に返された言葉の意図が分からず首を捻ると彼は少し苦笑して、
「俺はさ、憎しみに染まらずに許せる人ってのは誰よりも強い人だと思うんだ。憎しみの連鎖を断ち切れる存在は希少だ。受け入れて許すなんて並大抵じゃ出来やしない。お前は俺に刃を向ける権利があるのにな」
真っ直ぐに気持ちを伝えられて、私の頬が少し熱くなった。
「……わ、私は憎むのが嫌なだけです。だって、人を憎んでも何もいい事なんかありません」
憎しみというモノは恐ろしい。ひと時の感情に流されてしまえばそれがずっと広がって続いていく。何時までも何時までも、ずっとずっと世界は変わらない。
許す事が全ていいわけでも、憎むことが全て悪いわけでも無いけれど、そんな悲しい世界であるのなら、一つだけでも止めてしまえばいい……なんて考えてしまうだけ。何よりも、どうして非力な私のせいなのに誰かを責める事が出来るのか。
「クク、やっぱり月は凄いよ。そうだな、憎しみは復讐心となれば生きる力にもなるけど、遣り切ってしまうと違う憎しみしか生み出さないか。結局は堂々巡りだもんなぁ。無理やり止めるには気持ちを無視して秩序で縛っちまうしかない。それらを抑え込もうと発散しようと、誰かが損をするのは変わりないが……」
理不尽を受けた人の内側には誰かを憎む心があるのは彼もしっかりと理解している。秋斗さんが持つ憎しみに対する考え方は私とほとんど同じなのかもしれない。だって……一人で抱え込んで自分を責めるこの人は、無力な自分自身しか憎んでない。
秋斗さんと話していると不思議と安心感があるのはそういう事か。雛里ちゃんが私と秋斗さんはどこか似てるって言ってたし。ただ少しだけ違うのは、彼は憎しみを受ける事を承知の上で全てを踏み潰していくという点
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