暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン 〜無刀の冒険者〜
アリシゼーション編
episode1 隠された真実2
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落ち着け、『神月』、牡丹。主人たるこの『四神守』の命令だ」
 「っ、っ!!!」

 それでは、いけないのだ。

 彼女が冷静でいられないほどの境地にいるのであれば、俺は代わりに冷静になってやらなければならない。俺が冷静でいられない精神状況だった、SAO帰還後の日々に、いつだって彼女が冷静にそばに侍っていてくれていたように。

 彼女の焦点の合わない目が、かすかに動いたのを見て、俺は続ける。

 「……何が起こったかを話せ。……『命令』だ」
 「わ、私は……」

 牡丹さんの見開かれた目の視線が、ゆっくりと俺へと向く。
 狂気の涙が、再び溢れ出すように零れる。

 「……こ、殺してください……私には、それしか償うことが……ご主人様……」
 「……っ……」

 震える口が、弱弱しく言葉を紡ぐ。
 思わず息を呑むが、押されるわけにはいかない。

 折れそうになる心を必死に奮い立たせて、彼女に『命令』する。

 「……誰が『死ね』と言った? 貴様の主人は一言でも『死ね』と命じたか?」
 「……いいえ……」
 「では、貴様には殺される権利もない。死ぬことも許されていない」
 「……しかしっ!!!」
 「もう一度、『命令』する。何が起こったかを話せ。……神月に二度命じる、これがどれほど主人を侮辱しているかわからないわけではないだろう?」

 普段は毛嫌いする、彼女と俺の間にある「主人と従者の力関係」を用いた、『命令』。だが、この際そんな俺のプライドやポリシーなんぞに意味はない。捨てることで彼女の心を動かせるなら、全力投球で空の彼方へ放り捨ててやる。

 彼女の目が、わずかに冷静さ……とまではいかないが、人間的な思考を取り戻す。
 そこを逃さず、さらに踏み込む。

 「……俺に対して何かを黙っていた、それはいいです。思うところがあったんでしょう……牡丹さんはそういう人ですから。でもそれが牡丹さんを……俺の「友人」を苦しめているなら……それはもう、俺の問題なんです。話してください、お願いします、牡丹さん」

 抑制帯で曲げられないように固定された……しかしそれでもなおもがき、爪が食い込むほどに握りしめられた彼女の手をそっと両手で包む。伝える言葉は、『命令』ではなく、「お願い」。牡丹さんの目が、その手を見て、俺を見て。

 ……子供のようにくしゃりと表情を歪めた。
 先までの狂的な表情とは違う、けれどももっと辛そうな、そんな泣き顔。

 「……ご主人様……私は……私のせいで、『彼女』が……」
 「落ち着いて、ゆっくりでいいんです。俺は今日、ずっとここにいますから」

 できる限りの思いを込めて、彼女を安心させようと笑う。
 その笑顔に何を見たのか、彼女の目からまた一筋、涙がこぼれる。

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