3部分:第三章
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第三章
「それは問題ではありませんわよ」
「ですがアン様」
「問題ではありません」
その声はまた否定した。見ればその声の主は見事な麻色の髪に緑の目をしていた。背は周りと比べて少しだけ高く顔立ちは整い貴族の美貌がそこにある。細長い顔立ちであるが長過ぎない。顔は全体的に小さい。足は長く整った身体をえんじ色のドレスで包んでいた。それが今アンと呼ばれた少女であった。
「それは」
「問題ではないのですか」
「欧州人であろうと亜細亜人であろうと」
そのアンは言うのだった。
「立派な方は立派です」
「そうなのですか」
「それは」
「御覧なさい」
アンはさらに周りに対して告げる。
「世の中を」
「世の中を?」
「そうです。我が国でも」
英吉利のことであるのは言うまでもない。
「立派な人がいればそうでない人もいます」
「それはそうですが」
「答えはそれです」
ぴしゃりとした言葉だった。
「それです。つまり亜細亜人であっても立派な人はいるのです」
「そうなるのですか」
「あの。安曇様でしたね」
「はい、そうです」
「安曇朱雀様と仰います」
周りの少女達は朱雀の名前をアンに告げた。
「日本の貴族の御令嬢で」
「では私達と同じなのですわね」
「それですか」
「そうなりますわね」
この学園は貴族の娘達が通う学園である。だから朱雀もここに入ったのである。
「ではそれは私達と同じ」
「同じ貴族」
「やはり貴族であっても卑しい方はおられます」
アンはまた彼女達に対して言った。
「ですが」
「それでも素晴らしい方もですか」
「そうです。その安曇様」
アンはここではじめて彼女の名を口にしたのだった。
「あの方は素晴らしい方のようです。ですから」
「ですから?」
「アン様、どうされるのですか」
「敬意を以って接させて頂きます」
丁寧がそこには確かな意志があった。
「ただ。それだけです」
「それだけです」
「理由は今申し上げた通りです」
それ以上は言おうとはしない。それで充分だというのである。
「それではです」
「お付き合いされるのですね」
「何か悪いことがありまして?」
周りに問う声が少しきつい、咎めるようなものになった。
「何処か」
「そう言われますと」
「別に」
「優れた人には誰であろうとそれに相応しい態度で接し」
アンはまた言った。
「そしてその良きところを学べ。我がウェリントン家の家訓でもあります」
「家訓ですか」
「そうです」
貴族社会の中では家訓がとりわけ大きな規律となっている。当然ながら英吉利でもそれは同じだ。むしろこの国では貴族というものがはっきりとしているだけにその存在は他の国に比べてもかなり大きく重いものとなっている。
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