第六章
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第六章
「貴方のご息女、お預かりしますね」
「お願い申します」
こうして彼と鬼姫の縁談が決まった。鬼姫は渡部家に入り鎌倉にやって来た。そのままみよの母親になったのであった。
この義理の母娘は実に仲のよい母娘になった。鬼姫は確かに豪勇無双であり熊でも猪でも素手で倒せるような女であったがその心は誰よりも優しく草花を愛する心さえ持っていた。そんな彼女だからみよも慈しみ見事に育てたのであった。
「お父さん、有り難う」
みよはこのことに対して五郎に礼を述べた。
「優しいお義母さんを迎えてくれて」
「よかったか」
「うん」
彼女は笑顔でこの言葉に頷いた。
「とても。実はね」
「うむ」
娘の言葉に顔を向ける。そのうえで話を聞く。
「寂しかったのよ。お母さんがいなくなって」
「そうだったか」
「ええ。それで新しいお母さんが欲しかったけれど」
「鬼姫でよかったのだな」
「鬼姫なんかじゃないわ」
みよは義母のその呼ばれ方には口を尖らせて抗議を示してきた。
「いい?」
「何だ?」
「お義母さんはとてもいい人よ。それで鬼だなんて」
「いかんか」
「駄目よ」
口を尖らせたまま述べる。彼女は本気であった。
「そんな呼び方。お義母さんはお義母さんよ」
「うむ、そうか」
娘の言葉に応える。
「ではその呼び方は止めるとしよう」
「お願いよ。それでもね」
ここですっと寂しげな微笑を見せてきた。
「お母さんのことは忘れていないわ。けれどそれと同じ位にお義母さんのことが好き」
「好きか」
「ええ、好き」
この言葉にも迷いがない。彼女は本心から鬼姫を慕うようになっていた。
「私、お義母さんのおかげで楽しく過ごしてるし」
「それは何よりだ」
「それでね。お嫁にも行けそう」
これが第一の目的であった。それが今果たされようとしていて五郎としても満足な話であった。
「そうか、それではな」
彼はその言葉を聞いて父親として言ってきた。
「婿を今から探すからな」
「うん」
「お義母さんとな。楽しみに待っておれ」
こうして鬼姫と一緒に婿を選ぶことになった。結果として小田原にいる北条家の重臣の嫡男の家に入ることになった。これは氏康公も快諾した。
「鬼姫の薦めならば問題はあるまい」
これが彼の言葉であった。彼も鬼姫のことはよく知っておりその武勇と人柄に惚れ込んでいたのである。だからこそ彼女の言葉を信じたのである。
「そのようにさせよ。よいな」
「はっ」
家臣達がそれに頷く。この時代の婚姻は主君の承認が必要であった。その主が認めたということはそれだけでよしということであった。こうしてみよはその家に嫁に入ることになったのであった。
婚礼の日。鬼姫は白無垢のみよの前にいた。彼女の顔をじっ
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