糸刻み 追
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イフォンの呼吸は穏やかになってきていた。
自分に向かう鋼糸を見つめ、レイフォンはゆっくりと言う。
「うん。……こわかった」
「だろう。お前はお前の姉にそれをしたんだ」
武芸者が都市で受け入れられているのはそれが自分たちの身を守る力だからだ。
その気になれば今レイフォンがされたように一方的な蹂躙も行える。
その力が自分たちに向かない。その前提が、信頼があるから受け入れられるのだ。
隣の隣人が銃を持っていたら身の危険を感じるだろう。だが警察が持っている分にはそんな事を思いはしない。
「暴力が全て悪いわけじゃない。暴れる犯罪者を捕まえる為の暴力は賞賛されるだろう。駄目なのは正当な理由がないことだ。個人のワガママで剄の力を非武芸者に向けるなど許されはしないんだよ」
ここまで言い、ふと理解できているのだろうか疑問に思う。
相手は子供なのだ。もっと分かりやすく簡潔に言うべきではないだろうか。
「あれだ。正義の味方が悪を殴り殺すのはいいけど、普通の人を殴ったら怖いだろう。……いや、この言い方も悪いか?」
再度考える。理屈で話せる相手の有り難さを思う。
もっとわかりやすい言葉を考える。
「つまりあれだ。自分がされて嫌なことは他人にするなという事だ。これからはちゃんと学んで気をつけろ。分かったか」
考えた結果物凄く安直というか、ベタな言葉に収まった。今したことの集大成がその言葉になったことに疑問に思うがまあ、いいのだろう。多分。
「わかった」
レイフォンが言う。
本当にそう思ったのかは疑問だが表情に嘘の気配や適当に言った感じは無い。
鋼糸を再度回収し片手の錬金鋼を待機状態に戻す。
地面に手を付き、レイフォンが立ち上がる。疲れからか立ち上げる際、生まれたての動物のようにプルプルしていた。
レイフォンが頭を下げる。
「ごめんなさい、ししょー」
「何故謝る」
「まえにいわれたこと、まもれなかったから。わるいことしたらあやまれって、おかあさんにいわれた」
「そうか。まあ悪いと理解できたなら良い」
別にこちらは損を被った訳ではないが真面目なのはいいことだ。
「ししょー。きょうはなにするの」
「やる気だな。さっきのことがあったというのに」
「これからちゃんとまなべって、さっきいったよ」
「……そう言えば言ったな」
落ち込んでいたのがやる気になったのはいいがどうしたものか。
教えること自体を辞めるつもりはない。というよりも辞めるわけにはいかなくなった。
変に知識を付けさせ問題を起こしてしまった以上、ある程度分別がつき剄をきちんと扱えるようになるまで。少なくとも危険性がなくなるまでは教えなくてはいけない必要性が出た。
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