糸刻み 追
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「何をして怒られた」
少しして、レイフォンはポツリといった。
「……ねえさんにけがさせた」
思考を巡らし思い出す。最初にレイフォンを見た時にメイファーの胸に抱かれていた少女。今までもレイフォンの口から何度か聞いた事がある。
レイフォンとは違う非武芸者の、血の繋がらない義姉。
「おもちゃをかしてほしくて、わるぐちいった。ねえさんもわるぐちいって……」
「それで喧嘩して怪我させたのか」
俯いたままレイフォンは小さく頷く。
「ねえさん、ちがでてた」
詳しく聞くと少し前から多少の姉弟喧嘩もどきはあったらしい。内容は下らないものだ。
いつもなら一言二言の押収で終わっていたがその日は違った。メイファーが口を挟み、それにレイフォンは反発をした。何となく、で何度か反発し引っ込みがつかなくなり無理に姉であるリーリンが持っていたものを取ろうとした。
レイフォンはその際に無意識に活剄を使ったらしい。そのまま喧嘩し、その姉は容易くレイフォンに押された。
強化された力のせいで壊してしまった玩具の破片で姉は怪我をした。そこそこ大きな怪我だったらしく血も出た。
その事でレイフォンはメイファーに怒られた。
泣きそうになりながらそうレイフォンは言う。
「おかあさん、ぼくのほっぺたたたいてすごくおこってた」
「それはそうだろうな」
当然のことだとばかりに言い放つ。
単なる子供同士の喧嘩ならばありふれているが流血沙汰になれば話は別だ。たとえ姉弟喧嘩だとしても武芸者と非武芸者ならば一層だろう。
(それに恐らく……いや)
浮かんだ考えを打ち消す。それは今考えることではない。
ここ数日休んでいたのはその怪我の対処やレイフォンへの躾といったところだろう。
あの時のメイファーが怒りを滲ませていたのもわかる。何せ元凶のようなものだ。
それでも声を荒げず隠そうとしたのは雇い主だからか、それとも親として自分の不手際を思ったのか。
ただじっとレイフォンを見据える。
今回のことに関しては己の明確な不手際と言わざるを得ないだろう。
情緒不安定な子供に剄を教えると決め実際に教授したのだから。
精神的な方面ではなく技術的な面を先じてしまったのもそうだ。道理の知らぬ子供に抜身の刃を握らせたようなものだ。
何故一般的な武芸者の家系や流派が本当に早いうちから剄を教えないのか。それを軽んじてしまった。
危うさを教え導くのは大人の責であるはず。知らなかったは通用しない。それが出来ぬならばでしゃばってはいけない。
風が吹き伸びていた灰が崩れ落ち、思考の海に沈んでいた頭が戻ってくる。
煙草はほとんど灰になっていた。吸いきった一本を握りつぶし新しい一本を出す。
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