壱_その日、わたしは死にました?
一話
[2]次話
1月15日。天候は雪。大雪。大阪では珍しすぎることに、大降雪。
その日も加瀬ミヤコは、リクルートスーツをキチンと着こなし、足元の悪い中、都会を闊歩していた。
次こそ、次こそ何か手応えを得なければ。彼女は焦っていた。
何が自分には足りないのだろう。正直、顔だって悪くない。そりゃあ、多少はメイクで盛ってるけど。
書類審査は通るのに。ミヤコは横断歩道で信号待ちをしながら、無意識にため息をついていた。
白い息が、まるで煙草の煙のように宙に舞い、溶けるように消えた。
「あはっ、魂が抜けたみたいや」
ミヤコは自分の息が消えた辺りを見ながら、独り言を呟いた。
そしてすぐに現実を思い出す。信号は青になっていた。
次の企業の面接会場は、もうすぐそこだった。時間は余裕がある。余裕がないのは気持ちだけ。
ミヤコは美術系の大学に通っている。卒業式も間近である。
卒業制作に追われながらの就職活動。正直、辛い。体重も減った。見た目にはわからないが。
自分の好きなように作品を作るのはとても好きだった。
でも、企業に入ると好きなものを好きなだけ作っていくわけにもいかない。
会社の求めるものを的確に丁寧に、限られた時間の中で確実に制作できる。
そういうことを難なくクリアできる人材が有望なのだろう。
ミヤコはまだ横断歩道を渡っていなかった。
「まだ時間あるし、そこでコーヒーでも飲んで頭の中、整理しよ」
すぐそばのコーヒーショップへ足が向かう。
友達とも、一人ででもよく行くお気に入りのカフェである。
ミヤコはそこに入ると、いつものメニューを注文し、空いている席に腰を下ろした。
しかし、会社に言われたものをただ作るって、それって自分じゃなきゃいけないのだろうか。
誰にでもできることではないのだろうか。
自分にしかできないことを仕事にして、やりがいを感じて。
そういうことを心のどこかで目指しているのではないか。
ふう、と息をつく。落ち着いた頃に辺りを見回すと、自分と同じようにスーツを着た学生たち。
彼らはみんな、どういう企業を目指しているのだろう。
新社会人になるということに、期待しているのだろうか。
何年か働いて、毎日同じことをこなして、それでも仕事にやりがいを感じているのだろうか。
・・・・・・というか、人のこと心配してる場合か、わたしは。
ミヤコはコーヒーを飲み、時計を確認する。
もう何度も経験したこの緊張感。いっそのこと、行きたくない。
しかし行かなくてはいけないこのどうしようもなさ。はあ。
まだまだ雪は止みそうになかった。
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