第十一章 追憶の二重奏
第五話 手がかり 氷の女帝
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てる前に教皇はここへ来てしまった。
つまりアンリエッタは今、相手の情報が全くないま聖エイジス三十二世と渡り合わなければならないということである。
アンリエッタの瞳の奥、冷たい光が瞬く。
聖エイジス三十二世は王宮についた後、母后や宰相たちとの会食を終えるや、アンリエッタは人払いをした上での話し合いを求めた。つまり、王以外には誰にも話したくない、又は話せない内容。
ただ政治的な話で、人払いまでする?
可能性がないわけではない。
若輩者、女子供だと侮り自分に都合がいいように、余計な者がいない間に丸め込むつもりか。
もしそんな考えだったのならば―――後悔させてあげましょう。
アンリエッタは聖エイジス三十二世に改めて向き直る。
「それで、教皇猊下はトリステインに何の御用でこられたのでしょうか?」
「ええ、きちんとご説明いたします、が。その前にこちらも一つお聞きしたいことがあります」
柔和な微笑みに、悲しみの色を混ぜた聖エイジス三十二世。その様子に気付いたアンリエッタが、口元に浮かべていた笑みを微かに固めた。が、それも一瞬。直ぐに気を取り直したように柔らかくすると、続きを促す。
「それは?」
「先の戦役のことです」
「―――」
応えに、アンリエッタは息を詰める。
先の戦役―――今、このトリステインでそれに該当するのは、アルビオンでの戦。主たるアルビオン王家を廃した貴族の連盟―――レコンキスタとトリステイン・ゲルマニア連合軍との戦い。その戦争の結果は、前触れないガリアの参戦により連合軍の勝利で終わった。
勝利で終わった戦争。
だが、そのための犠牲は、その勝利に見合うものだったかと聞かれ、是と答えられるかは……。
正直に言えば思い出したくない。
だけど、決して忘れてはいけない戦いである。
伏せたくなる顔を無理矢理引き上げ、聖エイジス三十二世を見る。
その瞳に、一つ、鋭く、硬い光を秘めて……。
「……聞きたい事、とは」
「いえ。もう十分にわかりました」
静かに首を横に振る聖エイジス三十二世。
「分かった、とは?」
「あなたが私と同じように、あのような戦争を二度と起こしたくないと考えていると言うことをです。私はあの時、出来るだけ早く、あのような無益な戦を終わらせたかった。ですので、私は義勇軍の参加を決意したのです」
「……無益、ですか」
「何か?」
アンリエッタの視線の中に何かを感じた聖エイジス三十二世は、口元を笑みの形に曲げる。
「……益のある戦など……あるのでしょうか?」
「その通り。益ある戦。そんなものがあるわけがない。戦が起きる度、私は常に思っておりました。何故、神と始祖ブリミルの敬虔なるし
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