第十一章 追憶の二重奏
第五話 手がかり 氷の女帝
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座る男が、このハルケギニア中の神官達の頂点であるロマリアの教皇であった。その証拠に、上座に座っているのは、この王宮の主であるアンリエッタではなくロマリアの教皇である男の方であった。
アンリエッタは目の前に座る男を改めて見直す。
噂には聞いていましたが、本当に美しい人ですね。
アンリエッタはその立場から、高位の神官とは何人も見てきた。その経験から、アンリエッタは一つの結論に至っていた。つまり、
神官でも人―――である。
つまり、神官という人を導き救う尊き存在である筈の彼らが、その実権力や金、女に欲を持つ只人でしかないと言うことだ。
それは高位になればなるほど顕著であった。
しかし、今目の前にいる神官達の長である彼はそんな者たちとは一線を画していた。
トリステイン、否、ハルケギニア中を探しても同じレベルの美貌を持つものがどれだけいるかと言う程の美しい顔には、常に微笑がたたえられ、柔らかく細められた瞳には慈愛が宿っている。
思わず溜め息をつきそうになるのを堪えると、気持ちを切り替えるように一度ゆっくりと閉じた目を開く。
「教皇聖下。まずは即位式へ出席出来なかったこと、大変失礼をいたしました。遅れながらお詫びいたします」
「そんな。あなたが流行病に掛かり出席出来なかったことは聞いております。謝るようなことではありません。それに、私はあまり堅苦しい行儀は好みません。よろしければヴィットーリオと呼んでいただけませんか」
「そんな。恐れ多いことですわ」
教皇の名は、ヴィットーリオ・セレヴァレと言った。まだ二十をいくつも超えてはいないこの若者が、聖エイジス三十二世を即位したのが、今から三年前の事である。若いが、ロマリア市民からの人気は歴代の中でも最高と言われていた。それには輝かんばかりの美貌もそうであるが、身に纏う全てを包み込むような雰囲気が理由ではないかとアンリエッタは思う。
年頃の少女のように恥ずかし気に頬を染め目を伏せる姿を見せながら、内心の冷静な目でアンリエッタは聖エイジス三十二世を改めて見る。
しかし、本当に何故、ロマリアの教皇がわざわざここへ?
アンリエッタは思考する。トリステインへの聖エイジス三十二世の行幸が伝えられたのは、今日から丁度二日前の事だ。突然過ぎる大物の来訪に、アンリエッタは驚きよりも疑問が湧き上がっていた。
何故、と。
教皇がロマリアから出ることは殆んどない。あるとすれば戴冠式ぐらいであろうが、それも絶対ではない。それ程珍しい教皇の突然の行幸に、アンリエッタは強い違和感を感じていた。引きこもり気味の教皇が、理由もなく外に出ることはない筈。ならば、それ相応の理由がある。教皇が来る前に、それを見つけなければならない。
しかし結局は、予想すらまともにた
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