第十一章 追憶の二重奏
第五話 手がかり 氷の女帝
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タバサが士郎の探している言葉が載っている本を知っているかが問題なのだ。
思考の海から浮上した士郎が目を薄く開けると、最初からの姿勢のまま、じっとタバサは士郎を見つめていた。何時もなら、いや、先程まで静謐な湖を思わせていた青い瞳の中に、一瞬『かまって』オーラが浮かんだような気がした士郎だったが、いや、流石にそれは……まあ、さっきの件もあるし、疲れているんだろう。
と浮かんだ考えを頭を振って散らしていると、
「何を探してるの」
再度タバサが聞いてくる。
その真摯な声と態度に、士郎は一つ頬を指先で掻くと、小さく頭を下げた。
「それでは、少し聞くが、『抑止力』というものを知っているか?」
「『ヨクシリョク』……『よくしりょく』」
士郎に向けて伸ばしていた手を引き戻し顎に当てると、タバサは小さく俯く。
流石に知っている筈はないか……。
目線を下げ、考え込むタバサを見下ろす士郎は頭の上に手を当て苦笑を浮かべる。
「タバ―――」
「―――『抑止力』」
無理しないでいい―――そう告げようと口を開いた士郎だったが、
「……一つだけ、心当たりがある」
「何だって?」
違う言葉がその口から漏れる。
「付いてきて」
伏せていた顔を上げ、士郎を見上げたタバサが身体を回す。士郎に背中を向けたタバサは、スタスタと軽い足取りで図書館の奥へと向かう。前を行く小さな背中を追いかける士郎。広い図書館の中、その一番奥。誰の姿もない、図書館の端。普段から誰も来ないのか、埃がうっすらと積もっているようなそんな場所で、タバサの足が止まる。
「ここに?」
士郎の言葉に応えるように、タバサは一つの本棚の前に立つ。右手に持った杖を本棚に立てかけ、しゃがみ込んだタバサは、三十メイルはある巨大な本棚の一番下の一番端に収められた一冊の本に向かって手を伸ばす。
本棚から取り出した本を両手で抱え、上に積もった埃を払う。うっすらと積もった埃が宙を舞い、天窓から差し込む月明かりを反射しキラキラとした輝きを見せる。
「それが……」
「『欠片』」
タバサは手に持った本を士郎に差し出す。差し出された本は、タバサの小さな手では掴みきれない程の分厚さであり、それを見た士郎は、本というよりも鈍器と言った方が正確だなと感じた。タバサのその細い腕の力でそれを持つにはやはりきついのか、ぷるぷると小刻みに震えている。直ぐにタバサの手から本を受け取った士郎は、月明かりでその表紙を照らす。
「『欠片』……か」
タバサの口にしたものは、差し出された本の題名であった。飾り気も何もない機械的な黒い文字で書かれたそれを確認した士郎は、横に視線を向けタバサを見る。
「この
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