第十一章 追憶の二重奏
第五話 手がかり 氷の女帝
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だから、わたくしは先の戦を『無益な戦』だったと口には出来ない。
否、してはならない。
「一番は、戦自体が起きないのがよろしいのですが、そんなことは有り得ないともう分かっております。どれだけ努力をしようとも、戦というものは起きる時は起きるものだということは理解しています」
悲しげな色が混じった笑みを浮かべるアンリエッタに、聖エイジス三十二世は包み込むような笑みを向ける。
「それが出来ると言えば、あなたは信じますか?」
「―――出来るとは」
聖エイジス三十二世に問いかけるアンリエッタの声は小さく―――硬いものであった。
「戦を起こさせない。起きても直ぐに止めることが出来ると言えば、あなたは信じられますか?」
「……何をするおつもりですか」
信じる、信じないではなく、何をするつもりだと問いかけるアンリエッタに、聖エイジス三十二世は変わらず笑みを向けたまま。
「何も。ただあるものがあれば、戦を起こさず平和を維持することが出来ると言っているだけです」
「あるもの?」
「力です」
短いその応えに対し、アンリエッタは微かにも眉を揺らすことはなかった。
「……」
何も言わず黙って続きを聞く体勢のままのアンリエッタに、聖エイジス三十二世は語りかける。
「争いを起す気力も起こさせない程の圧倒的な力。争い合う両者を一度で黙らせるほどの力……それ程巨大な力があれば平和を維持することが出来ます」
「それだけの力が何処にあると?」
「あなたは既にそれを知っているはずです」
にこやかに笑いかけてくる聖エイジス三十二世に、アンリエッタは目を細め首を傾げる。
「さて、見当がつきません」
細めた目。
弧月に曲げた口元。
しかし、それは決して笑ってはいない。
「本当ですか?」
「ええ」
疑問―――疑いが混じった目線に、変わらず笑に形作った顔のまま頷く。
じっと、数秒ほどアンリエッタの顔を見つめていた聖エイジス三十二世は、内心で小さく溜め息を吐くと、その答えを口にしようとする。
「……ではお教えしましょう。その力は伝説に詠われる始祖の力」
「―――『虚無』」
が、しかし、肝心の答えを口にする前に、アンリエッタが答えを口にした。
半開きの中途半端な形で口を開いたまま一瞬だけ固まったが、直ぐに笑の形に戻すと、聖エイジス三十二世は頷いた。
「……その通りです」
そこ声は微かに揺れていた。
「始祖の力は強大です。その強大な力を四つに分け、始祖ブリミルは秘宝と指輪に託し、自分の力と共に己の子四人にそれを託しました。トリステインに伝わる水のルビー、そして、始祖の祈祷書がそれです」
「何故そのような
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