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剣の丘に花は咲く 
第十一章 追憶の二重奏
第五話 手がかり 氷の女帝
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もべたる私たちが、こうも争わなければならないのかと」

 然りと頷く聖エイジス三十二世。
 聖エイジス三十二世から視線を外したアンリエッタは、天井に吊られたステンドグラスを見上げる。

 益のある戦などない。
 そう……確かに、そうなのかもしれません。
 人の、若者の命をかけてまで争う必要がある戦争等ない。特に先の戦は、自分の身勝手な復讐から始まった戦争である。それに益など何処にもない。そんな事、改めて言われなくとも嫌でも分かっている。
 戦争なんて二度としたくはない。
 愛する人がいなくなる。
 そんな悲しみをもう一度感じてしまえば、今度こそ本当に死んでしまうかもしれない。
 そんな悲しみを他の人(国民)にも感じて欲しくない。

 本当に、自分(アンリエッタ)は心の底からそれを望んでいる。 

 ―――しかし―――
 
「―――いいえ、聖下。益のある戦はあります」
「……どう言う、ことでしょうか?」

 アンリエッタが顔を前に戻すと、聖エイジス三十二世は変わらず微笑んだままであったが、その目に秘めた輝きが微かに強くなっていた。

「先程、聖下は先の戦が無益だとおっしゃいましたが、『益』はありました。それは幾つもありますが、最も大きいものは『土地』です。ご存知の通り我が国は決して大きいとは言えません。人口も土地も他の国に劣ります。ですが、先の戦で我が国はアルビオンの土地を多く手にすることが出来ましたし。国庫の損失も、賠償金により数年以内には倍、とは言いませんが元よりも多くなります。このように、我が国は先の戦により『益』を得ることが出来ました」
「では、あなたは先の戦は有益な戦であったと?」

 笑みを消した聖エイジス三十二世が、視線を強くしアンリエッタを見つめる。アンリエッタは動じない。静かに見つめ返す。

「はい。『無益』な戦ではありませんでした………いえ、違いますね」

 ―――スッと目を細め、その青い瞳の中に冷気にも似た冷たい輝きを光らせ。
 
 ―――しかし、自分(女王)は、それでは駄目なのだ。

「『無益』な戦にしてはいけないのです」
「してはならない?」

 小さく頷いたアンリエッタは、膝に乗せた手を強く握る。

「意味のない、無益な戦いだったと、命を散らせた兵士を無駄死にしてはならないのです。彼らのお陰で助かった、幸せになれた、良くなった……そうしなければならないのです」
「それが真実でなくとも、ですか?」
「その通りです。例え本当は何も得ることがなかった戦であっても、死んでいった者たちのため、残された者たちのため、決して無益な戦としてはならない」

 そこまで口にしたアンリエッタは、不意に視線を手元に落とすと、握り締めすぎて真っ白になった手を見つめる。

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