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剣の丘に花は咲く 
第十一章 追憶の二重奏
第五話 手がかり 氷の女帝
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 誰に言うでもない独り言に返事が返って来たことに、

「ん? いや、ちょっとな」

 しかし、士郎は驚かなかった。
 顔を上げ、横を向く。やや下に下がった視線の先にいたのは、ルイズよりも小さな身体のタバサであった。タバサは右手に自身よりも大きな杖を、左手に本を抱えている。士郎はこの図書館に逃げ込んで直ぐにタバサがいることには気付いていた。そして、つい先程自分に気付いたタバサが近づいてくることにも気付いていた。しかし、別に嫉妬戦士(バーサーカー)たちを連れてきている訳でもなく、また、タバサが基本的に一人が好きだということを知っていたため、士郎は特に反応はしなかったのである。
 
「本?」
「いや、まあ、本といえば本なんだが、正確に言えば本ではなく」
「……調べたい事がある?」
「ん、ああ、そうだな。ちょっと調べたい事があってな。それについて書かれている本がないかと」

 士郎が辺りを見渡す。周りには一つに万はあるだろう本が詰まっている本棚が無数に並んでいる。続く言葉を態度で示す士郎に、タバサは左手に持つ本を近くの本棚の収めると、空いた手を士郎に向かって差し出した。

「? 何だ?」
「教えて。何が知りたいの?」

 静かな湖面のように波立たない青い瞳に見上げられる士郎は、腕を組み思考する。
 士郎は最初、ハルケギニアの文字の読み書きは出来なかった。日本語の辞書があるわけもなく、さてどうやって読み書きを覚えようかと頭を悩ませていた士郎に教師を申し出たのが、タバサであった。丁度その頃、士郎の料理を口にする機会がタバサは、勉強代の代わりに朝ご飯を要求。士郎はそれを快諾した。
 さて覚えるまで何日掛かるかと戦々恐々していた士郎だったが、蓋を開ければ予想外の結果に終わった。たった一日。正確には半日程度である程度の読み書きは可能となっていた。元々色々な過去の経験から、語学等といった分野に対する実力があった士郎なのだが、この結果には流石に異様を感じていた。普通なら必要な単語を覚えるまでに数日かかるところが、タバサが一度説明するだけで、まるで昔から知っていたように記憶してしまう。いや、正確には文字を読もうとした際、まるで頭の中に高性能な翻訳機があるかのように一瞬でその文字の意味が分かるのだ。そのお陰で、一時間で分厚本一冊を一人で読めるまでになっていた。ただ、読みは直ぐに覚えられたが、書きの方は少しばかり時間がかかってしまっていた。しかし、そうは言っても合計で半日程度で読み書きがある一定のレベルで出来るようになっていた。原因については、多分ルイズの虚無。正確には召喚魔法によるものではないかと士郎は考えてはいるが、予想は予想でしかない。その本当の所は分かってはいかなった。
 とは言え、士郎のハルケギニア文字の読み書きは今は関係なく。

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