第十一章 追憶の二重奏
第五話 手がかり 氷の女帝
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「……っ……っ……っくそ、本当にしつこすぎるぞ」
本塔にある図書館。
何千、いや、何万もの本が詰まっているだろう三十メイルもの高さを持つ巨大な本棚が、森に生える木々のように乱立する中、そこに衛宮士郎の姿があった。本棚の影に身を潜め、息を殺し辺りを伺っている。ギーシュたち|嫉妬に狂い狂戦士となった水精霊騎士隊《ウンディーネ》から逃げ出したのはいいが、どうやって連絡を取ったのか、学院に逃げ込んだ士郎の前には大勢の嫉妬の炎を瞳に宿した男―――否、漢達が待ち構えていた。漢達の中には学院の生徒だけではなく、教師の姿もあった。漢達は立ち尽くし顔を引きつらせる士郎に気付くと、それぞれ意味不明な奇声を発しながら魔法を放ち追い掛けだした。漢達の執念と嫉妬は士郎の想像を超え激しく。その追跡は苛烈を極めた。
漢たちは時に空から降り、時に土の中から生え、時に池の中から浮上し、士郎に迫る。
何処へ逃げようとも何処ぞのストーカーの如く姿を現す。
そして今、士郎は何とか、本当に何とか漢たちの追跡を振り切り、この図書館で数時間ぶりに身体を休めていた。
「まさか、あそこで壁を壊して襲いかかってくるとは、しかも、囮が最後に自爆するなど……」
本棚に寄りかかり、士郎は顔を横に傾ける。視界の隅に映った高い位置に設置された窓の向こうには、闇の中に浮かぶ星の光が見えた。
時刻は既に夜となっていた。ギーシュたちの訓練が終わったのが昼ごろであったことから、つまり士郎はほぼ半日嫉妬に狂った漢たちから逃げ続けていたということである。その事に気付いた士郎は、顔を手で覆い深く大きな溜め息を一つ着いた。
「予定が全部狂ってしまった。だが、まあ不幸中の幸いか、少しは探すことが出来そうだな」
今日の予定のうち、大部分は実行不可能になってしまったが、最大の目的を少しは出来そうであることを知った士郎は、膝に力を込め一気に立ち上がる。
「さて、この量から手がかりなく探し出すのは苦労では済まされんな」
上が霞んで見えそうな程の高さを誇る本棚を見上げ、士郎は疲れた声を零す。
気を取り直すように左右に顔を軽く振ると、本棚にぎっしりと詰め込まれた本に向かって手を伸ばした。一冊一冊引き出し、表紙に書かれているアルファベットが崩れたようなハルケギニアの文字の題名を指先でなぞり、自分が探しているものの手がかりになるような本を探す。本棚の一列を確認し終えるだけでも、軽く三十分は掛かっていた。三十メイルの高さの本棚を見上げ、そして図書館内に無数にある同じ大きさの本棚を見回した士郎は、棚に手を着き崩れ落ちそうになる身体を支える。
「……いや、流石に無理だろこれは、手がかりもなしにこの量から探し出すのは」
「―――何を?」
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